福祉作業所の仕事に多様性を。アップサイクルで街づくりに挑む蔵前の自家焙煎店「縁の木」

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台東区蔵前にあるコーヒー店「焙煎処 縁の木」。代表の白羽玲子さんは、縁の木の店舗から800mほど離れた土地に「ZEROラボ」という小さな事業所も構えています。

部屋の真ん中に大きなテーブルが置かれており、お伺いしたときは父の日ギフトの発送準備でギフトボックスがたくさん用意されていました。

そんな中、明るい笑顔で出迎えてくれたのは、縁の木代表の白羽さんとスタッフの勝浪さん。

一見どこにでもある自家焙煎の喫茶店が、ここで何をしているのか。どんな事業に取り組んでいるのか。今回は、ZEROラボにて白羽さんと勝浪さんにお話をうかがいました。

写真(左):勝浪 永子(かつなみ ひさこ)さん
写真(右):白羽 玲子(しらは れいこ)さん

【縁の木 代表 白羽玲子さんのプロフィール】
2児の母。次男は知的障害を伴う自閉症。
印刷会社と出版社勤務でのBtoB営業を経て、2014年に株式会社縁の木を立ち上げる。
現在はコーヒーの焙煎・販売とアップサイクルプロジェクトの「KURAMAEモデル」、2つの事業を手掛けている。

焙煎処縁の木
住所:東京都台東区蔵前2丁目3−1
営業時間:12:00~17:00
定休日:月、水、日、祝
電話番号:050-3701-1178





知的障害のある息子を育てながら起業に挑む

――蔵前で縁の木を立ち上げた理由についてお聞かせください。

次男に知的障害があると分かったことが、大きなきっかけとなりました。
それから、次男が診断を受けた時期に突然母を亡くしたのです。それを受けて、私自身いつまで生きていられるか分からないけれど、親が亡くなった後、知的障害者である息子はどうやって生きていくのだろうかと考えました。
お金を残してあげることも大事かもしれないけれど、それ以前に息子が生きる場所として“働く場所”を残してあげた方が良いのではないか。こんな風に思ったんです。

蔵前で立ち上げた理由は、長男の学区内が良いと思ったからです。
やはり次男に手がかかってしまうので、少しでも長男のことを気にしてあげられるように蔵前小学校のPTAをお手伝いすることにしました。
学校に近いところで働いていれば何かあったときにもすぐに駆け付けられるし、PTAに入ったことで長男の学校での様子も少し多めに見守れる。
次男が墨田区の支援学校に通う日が来てもここからなら蔵前駅が近いので、そういった意味で蔵前を選びました。


――起業はおひとりでされたのですか?

最初は1人の友人に声をかけました。幼稚園から続いている幼なじみなんですよ。
でも起業当初ってそんなにお給料も出せないし……。
それでも「1人でやれるの?」と私のことを心配してくれて、今も一緒にやってくれています。
 
勝浪さんはもともとママ友だったのですが、KURAMAEモデルを始めた頃からご一緒してもらっています。
ちょうど1年ほど前からですね。今はアップサイクル企画に携わってくれたり、通販の面倒を見てくれたりしています。


――信頼できる仲間がいるのは心強いですね。ちなみにKURAMAEモデルというのは、どういった活動なのでしょうか?

KURAMAEモデルは、アップサイクルの原材料創出に地域全体で取り組むことでストーリー性をつけようというのがコンセプトのプロジェクトになります。一番の目標にしているのは「福祉作業所の仕事に多様性を持たせること」なんです。将来、次男も通うことになると思うので……。


身近に見えた、福祉作業所の“課題”。縁の木にできることは……。

――福祉作業所の方たちのお仕事について、詳しく教えてください。

簡単にお話しすると、福祉作業所には「A型作業所」と「B型作業所」と呼ばれる2種類があります。
現在の発達状況を診てくださる主治医の先生のご意見では、次男が将来通うであろう福祉作業所は“B型”です。仕事の内容は単純で、例えばシールを貼るなどの内職をしたり、クッキーを焼いたり、はたまた掃除をしたり。先進的な作業所はアートや独創的な自主製品作りに取り組むところもあるのですが、仕事の種類は少なくて……。

つまり、彼らの仕事には多様性がないんです。なので、好きなことや得意なことを見つけたとしても、それを生かした仕事に就くことはできない可能性が高いですよね。
 
あとはコロナの影響を受けて、福祉作業所も今仕事が少なくなっている状況なのですが、こうした状況下にあっても定期的にできる仕事があったらいいのに、というのも考えました。そんな想いで、縁の木の第2の事業「KURAMAEモデル」を立ち上げたんです。


――KURAMAEモデルを通してアップサイクルの取り組みを行うだけでなく、福祉作業所の方の仕事も増やしたい。そんな想いで取り組んでいるのですね。実際に何かお仕事を依頼されましたか?

はい。KURAMAEモデルで最初に取り組んだ商品企画は、有機質肥料の原材料創出でした。
福祉作業所の方には蔵前に点在するコーヒー店を回ってもらって、各店舗からコーヒーかすを資源として集めてもらい、それをメーカーさんに買い取っていただける状態に加工する作業をお願いしていました。
他にも、アップサイクルグッズによって加工するものが違うのでいろいろな仕事があります。
メーカーさんが、福祉作業所が加工したものを原材料として買い取ってくださるので、その分福祉作業所には工賃が支払われます。
福祉作業所の方も、ちょっとした空き時間を使って私たちがお願いした作業を行ってくれるので、無理のない範囲でお仕事ができて、工賃が少しずつでも上がっていくといった仕組みです。


――福祉作業所への原材料の加工の指示はどなたが?

縁の木がやっています。福祉作業所にはどんなマニュアルがあれば作業がスムーズにできるかなどをヒアリングします。
それからメーカーさんにも、原材料となるものをどんな形で納品してほしいかとか、どんな分析結果があれば品質保証が通るかなどをヒアリングしながら調整していきます。コーディネート業のような感じですね。


福祉作業所 × アップサイクル「KURAMEモデル」実現に向けて

――KURAMAEモデルから最近新しくできた商品はありますか?

アサヒグループホールディングスの新会社「アサヒユウアス」さんと一緒に作ったクラフトビール(※)や森のタンブラーなどがあります。(※酒税法上の表記は発泡酒となります)

蔵前WHITE
(画像提供:アサヒユウアス株式会社様)
蔵前BLACK
(画像提供:アサヒユウアス株式会社様)

クラフトビールの「蔵前BLACK」は、蔵前にあるコーヒー店からテスト焙煎後飲めるけれど処分されてきた豆を集めて作られています。
それに対して「蔵前WHITE」は、サンドイッチ店のパン耳を加工したラスクが原材料になっています。
福祉作業所にコーヒー豆を集めてもらったり、ラスクを作ってもらったりするので、工賃もお支払いできるんです。

福祉作業所のみんなの「俺が作ったビール」感はすごかったよね。

そうなんです。アサヒユウアスの方に原材料加工の苦労話を延々とされていたりして (笑) ユウアスさんも優しいから、なるほど、ありがとうございます、と聞いてくださって。そこでまたやりとりがうまれていきます。
「お母さんを連れてビールを飲みに行った」と話す人もいて。
形になるものをご一緒できたのはよかったなと思いました。


――ストーリーが分かるとまた魅力を感じます。他にも取り組まれている企画はありますか?

今、実証実験として“たい肥”を作るプロジェクトに取り組んでいます。
これは丸紅さんと一緒に生分解性の食器「edish(エディッシュ)」を作ったことがきっかけでした。
edishは、蔵前の「ダンデライオン・チョコレート」さんから焙煎時に出る“ハスク(カカオの皮)”を集めて作られていて、それを蔵前地域のお店で使っています。
今までのKURAMAEモデルは、「地域に戻して購入できる、使える、で終了」だったんですけど、生分解紙器の場合はごみとして捨てるとただの燃えるごみにしかなりません。
せっかく土に還る素材にしたのに、それでは意味がありませんよね。

――確かに、その通りですね。

なので、私たちが土に還らせるところまでやりましょう、ということで丸紅さんにもご協力をいただきながら実証実験に取り組んでいます。
 
実際に地元のお寺にご協力をいただきコンポストマシンを置かせていただいて、蔵前小学校の給食製造時の端材や店舗の食べ物の残りやコーヒーかすなども入れて、蔵前純産のたい肥を作っているんです。このたい肥は蔵前小学校の畑で使われたり、試してみたい方には差し上げたりしています。


――素敵な企画です。KURAMAEモデル以外にもアップサイクル商品の取り扱いがあるとか?

はい。実は、KURAMAEモデルをやっている影響で、アップサイクルに力を入れているメーカーさんから「うちで開発したアップサイクル品も扱ってほしい」といったお声がけをいただくようになったんです。それで、ZEROラボに置いて販売したりオンラインショップを通して販売したりしています。
 
例を挙げると、アサヒビールさんや北海道コカ・コーラさん、AGFさんなどのアップサイクル品があります。普通に考えればこの3社が同じブースに並ぶことはないですが、「アップサイクル」という横ぐしを通せるおかげでどんなメーカーさんもフラットに並べられるようになる。おもしろいですよね。


――もしかして、ここにも福祉作業所の方が関わった商品がありますか?

全部ではないですが、福祉作業所が関わって作られている商品もあります。
例えば「みかんのジャグチ」という商品は、愛媛の福祉作業所の方たちが携わっていて、販売できないみかんを使ったアップサイクル品です。

いつの間にか全国からお問い合わせをいただくようになり、食べ物からグッズまで、いろんなアップサイクル品が集まるようになりましたね。

――縁の木の想いが全国に届いているのですね。

ものづくりの街、台東区にサステナブルの横ぐしを

――これから新たに取り組もうとしていることはありますか?

台東区に“サステナブルの横ぐしを通す”というのをやっていきたいと思っています。先ほど紹介したアップサイクル品も、企業同士としてはライバルですが、サステナブルという視点で見ると横ぐしが通るんですよね。
 
今の台東区は、サステナブルな取り組みをしようとする店にとって、あまり条件の良い街とは言えないかもしれません。でも、よく見つめてみれば、昔からのものづくりには無駄がなく、意識しない中にたくさんのサステナブルな工夫が点在しているんです。私たちは今、試行錯誤をしながらKURAMAEモデルに取り組んでいるので、サステナブルな取り組みを街ぐるみでできたら、台東区の活性化にも繋がると思うんです。

KURAMAEモデルはあくまでも民間の企業として活動しているので、多くの企業さんにスポンサーとして応援していただいている状態です。それに応える形で、アップサイクルを通してのコミュニティの形成や、地域と企業を繋げる取り組みなど、サステナブルな街づくりの仕組みを作っていけたらいいなと思っています。
“台東区発”のプロジェクトを実現しつつ、ゆくゆくは他地域にも展開し、蔵前でたくさん失敗してできたノウハウを活用していけたらうれしいです。

――本日はありがとうございました。




さいごに

KURAMAEモデルには課題ばかりだと白羽さんは言います。時には、白羽さんの想いが相手に伝わらず悔しい思いをしたことも……。

それでも白羽さんは、“非効率に見えることでも大義に理解を得られれば進められる”という信念を持っています。

障がいのある我が子も暮らしやすい街になるように。地域の住民が、誰ひとりとして取り残されない“サステナブル”な街になってほしい。そんな想いが内に秘められているのではと、筆者は感じました。

白羽さんの思い描く未来が実現できたら、いつか私たちの地域にも新しい“縁”が広がっていくかもしれませんね。

▼縁の木オンラインショップ

▼めぐりモールで「縁の木」商品を応援購入する


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ライター紹介

夏川 さほ

SEOライター、取材ライター

埼玉県生まれ、神奈川県在住。 4人の子育て真っ最中のママライターです! 忙しい毎日にほんのり癒しを与えてくれるようなお店探しがマイブーム。 にぎやかな場所より静かな裏道にあるお店が好き。 台東区の魅力をママ目線でお届けします♡
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