【シモジマ】懐かしのストップペイル復刻秘話をインタビュー!

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“昭和レトロ” が注目を集めている昨今。当時ファンシーショップや文具店など、さまざまなお店で使用され、多くの人に愛されていた紙袋をご存じですか?

その名も「ストップペイル」。

名前だけ聞いてもよく分からないという人がいるかもしれませんが、実物を見たらきっと懐かしさを抱く人は多いはず。そのストップペイルを生み出したのが、台東区にある包装業界の老舗、株式会社シモジマです。

ストップペイルは廃盤になっていましたが、シモジマの創業100周年という節目に復刻。特徴的なレトロデザインの懐かしさに、多くの人が関心を寄せています。

今回は、世代を超えて愛される “ストップペイル” を生み出したシモジマのこれまでの歩みと、ストップペイルの復刻秘話について、復刻に携わったシモジマの社員さんにお話を伺いました。

筆者撮影:お話を伺ったシモジマの社員さん



シモジマの歴史

――まずは、シモジマがどんな企業なのか?歴史についてお聞かせください。

シモジマの創業は大正9年(1920年)です。2020年1月をもって創業100周年を迎えました。
今でこそ “包装業界の老舗” と言われていますが、創業は向島の吾嬬町(現・墨田区)に構えた小さな1店舗から事業を始めた企業です。

拡大のきっかけは、創業者である下島平次氏がパリに出向いて、手提木(てさげき)を日本に持ち帰り、製品化をして百貨店に売り込みに行ったことです。この手提木は、当初の機能はそのままに木製からプラ製へと形を変え、現在も「ヘイコーホルダー」として使われています。

さらに1964年の東京オリンピック開催時に、東京オリンピックのロゴ入りオリジナル紙袋を企画・販売したことがきっかけで全国に営業所を拡大していきました。それまでは東京と宇都宮(栃木)にしか店舗はありませんでした。

手提木(画像提供:シモジマ)
木製からプラ製へ変遷した手提木(画像提供:シモジマ)

――小さな商店から徐々に拡大していき今のシモジマに成長を遂げたのですね。

ただ、全国に販路を拡大するにあたり、1つ問題が生じました。

それまではお客様と顔を合わせて取引を行うことができましたが、地方にも販路を拡大するとなると、すべての取引を対面で行うことが難しくなってしまったのです。それではお客様が受け取った商品が、確実に “シモジマの商品である” という証明ができなくなります。

そこで、シモジマが取り扱う商品であることを示すマークを作りました。これが「ヘイコーマーク」です。

ヘイコ―マークを掲げたシモジマの旧ロゴ(画像提供:シモジマ)

ヘイコーマークには、“商品を光のように、全国に行き渡らせる” という意味が込められています。創業者の名前である “平次” の「平」と、「光」を合わせて「平光(ヘイコー)」と名付けられました。

今でもヘイコーブランド(※)の商品には「HEIKO(ヘイコー)」と印刷されています。ぜひ探してみてください。

(※ヘイコーブランド=シモジマのオリジナルブランド)

ヘイコ―ブランド商品に印刷されるHEIKOロゴ(画像提供:シモジマ)

――先代の社長のお客様に対する誠意が伝わってくるエピソードですね。

筆者撮影:紙袋の底面に印字された「HEIKO」のマーク


ストップペイルの誕生秘話

――デザインが施された紙袋は、いつごろから普及し始めたのですか?

シモジマが初めて「ファンシーバッグ」を発売したのが1958(昭和33)年のことです。

当時、無機質な茶色の紙袋が一般的だったので、絵柄やデザインにこだわった紙袋は大きな反響がありました。そこから、いろいろなデザインの紙袋が開発され商品化されていった背景があります。

――そのひとつがストップペイルだったというわけですね。ストップペイルのデザインは、どのようにして生まれたのですか?

ストップペイルは元テキスタイルデザイナーの板垣順子(いたがきよりこ)さんにデザインしていただきました。はっきりとした記録はないのですが、1970年代の初期に誕生したデザインだと聞いています。

当時はキャラクター文具やファンシー雑貨の人気がとても高いものでした。ストップペイルは2代目社長である下島通義氏が、板垣さんに「ファンシーなデザインを」と依頼して作られたそうです。

板垣さんにはストップペイル以外にも、モーニング、スターギャル、スワンなど、さまざまなファンシー柄のデザインを手掛けていただきました。ストップペイルとまではいきませんが、今でもそれぞれ根強い人気を誇っています。

――「ストップペイル」という名前の由来はなんですか?

デザインの中に「STOP」と描かれたバケツがあるのですが、その「ストップ」と、バケツの意味の「PAIL(ペイル)」をくっつけて「ストップペイル」になったそうです。

筆者撮影:「STOP」と描かれたバケツのデザイン

――名づけひとつをとってもレトロっぽさが感じられて、ますます魅力的です……!

ストップペイル復刻のきっかけは展示会

――なぜ、100周年のタイミングで復刻したのが “ストップペイル” だったのでしょうか?

ストップペイル復刻のきっかけは展示会です。第1弾は2016年の春に、シモジマがこれまでに販売していた紙袋を展示しました。特にオリンピックデザインの紙袋は、今の50~60代の世代にとってはすごく懐かしいデザインなんです。

「シモジマってこんなに歴史があるんだね」と反響をいただき、とてもインパクトの強い展示会となりました。

そして第2弾の展示会が2019年に開かれ、このときに初めてストップペイルを出しました。すると予想以上の反響があり、「ぜひ復刻してほしい!」との声が殺到したんです。

――展示会で予想以上の反響があったので、じゃあ復刻しよう!という展開になったのですね。

そうなんです。実はこのとき展示したストップペイルの紙袋は、「昭和レトロ市」というイベントで社員が個人的に購入した私物なんです。当時のストップペイルの現物は、社内には残っていません。

――すごい! 昭和レトロ市でストップペイルに出会っていなければ、復刻はなかったというわけですか?

そうですね。ストップペイルの復刻は、当初はまったく予定していませんでした。どちらかというと反対されていたほどです。でもこれだけ大きな反響をいただけたので、もう作ってしまおう!と。勢いで製品化しましたね。

――もしかして100周年で何かしようというアイデアが他にあったとか?

どちらかといえば控えめな会社なので、100周年だからといって特に何かしようというのはありませんでした。100周年の記念誌を作成しましたが、当初は記念誌の作成すら迷っていたほどです。

企画していたイベントも、新型コロナウイルス流行の影響で白紙になってしまいました。

でもイベントを開催しなかった分経費が浮いたので、その分をストップペイルの商品開発に充てられたのは大きいですね。

あとは、100周年記念に学研さんと協力して「包装のひみつ」という書籍を作らせていただきました。まだ復刻の話が出る前に作ったものなのですが、最後のページにちらっとストップペイルのデザインを載せていて、ブームを予感させています(笑)

学校の図書室や図書館にしか置かれていない非売品ですが、Webからも見られるのでぜひ読んでみてください。

筆者撮影:書籍版|包装のひみつ

学研 まんがでよくわかるシリーズ174「包装のひみつ」Web版はこちら(無料公開期間:2023年3月まで)

――復刻にあたってさまざまな商品が販売されているようですが、開発は大変ではなかったですか?

実は自社で復刻した商品は紙袋や小袋だけなんです。復刻と同時にいろいろな企業の方からお声がけいただいて、アパレルになったり雑貨になったりとさまざまな商品展開をさせていただきました。

現在24社とコラボしていて、700種類ほどの商品があります。 新商品が発売されるたびにSNSでも多くの反響を寄せられるので、そのたびにストップペイルが愛されていることを実感しています。

筆者撮影:シモジマが復刻したストップペイル製品

――それだけ私たちの生活になじみ深い商品だったのですね。私自身も懐かしく感じます。ちなみに「復刻」ということは、廃盤になっていた商品なのでしょうか?

そうですね。ストップペイルは自然に消滅するような形で廃盤になっていった商品です。

もともとファンシーショップや街の文具屋さんなどで購入した商品を持ち帰る際に使われていたものですが、そうしたお店がどんどん少なくなっていき、それに伴い商品の生産が減少していったことが背景にあります。

――確かに、最近はそうしたお店を見なくなりましたよね。廃盤になっていたという事実は、消費者も気付いていなかったかもしれませんね。

復刻されるまで、このデザインに「ストップペイル」という名前が付いていたことすら、消費者の方は知らなかったのではないかと思います。

“ストップペイル” の名がここまで世に広まったのは、復刻がきっかけです。

特別、ストップペイルの商品を売り出してきたわけでもありませんので……。

筆者撮影:シモジマ×フェリシモのコラボ商品(シモジマ本社にて)


ストップペイルが愛される理由とは

――これほどまでにストップペイルが愛されている理由はなんでしょうか?

ストップペイルの見どころは、印刷の “版ずれ” やローマ字で書かれた文章です。

復刻後、ストップペイルの生みの親である板垣さんにお話を伺う機会があったのですが、「何も考えず、気楽に描いた」とのことでした。このちょっと気の抜けたデザインがレトロっぽさを演出しているのではないでしょうか。赤と黒の2色のみ使用しているのも、派手すぎないので世代を問わず使いやすかったのかもしれません。

筆者撮影:ストップペイルのデザイン

――確かに、この絶妙な印刷のズレがいい味を出していますよね。親しみやすいイラストもすごく好きです。

ストップペイルはシモジマの象徴

――最後に、ストップペイルはシモジマにとってどんな存在ですか?

商品名もわからないけど、ただただ日本の至るところで、さまざまな業種で使われてきた、シモジマの象徴のようなものなのかなと思います。

実はストップペイル以外のファンシー柄デザインもいくつか復刻をしたのですが、圧倒的にストップペイルの人気が高かったです。

みんな名前は知らないけれど「あの時のあれだ!」といった感じで話題にのぼり「どうやらストップペイルと呼ぶらしい」という風に、一気に認知が広まっていったのだと思います。

ストップペイルがこんなにも多くの方に愛されていたことに、自分たちはまったく気付いていませんでした。私たちも今回改めてストップペイルの魅力に気付かせていただけたので、こうして多くの反響をいただけて大変ありがたく思っています。

――まさにお宝発掘ですね。本日はありがとうございました!




まとめ:ストップペイルとともにあの頃の記憶を呼び起こして

昭和~平成初期にかけて愛され続けたストップペイル。

しかしこれが当たり前のように使われていた当時、「このデザインがすごく好き」という認識でいらっしゃった人は、もしかしたらそう多くはないかもしれません。

ストップペイルは日常にある当たり前の存在であり、気付いたときには姿を消していた……。

そんなストップペイルが数十年の時を経て再び世間に顔を出したとき、人々が改めてその魅力に気付く。こんな運命的なエピソードを持つ商品が他にあるでしょうか。

ストップペイルのデザインをひと目見て懐かしさを感じる人は、ぜひこの機会に “復刻版ストップペイル” の商品を手にとってみてはいかがでしょうか?

いまは包装紙以外の商品もたくさん開発されているので、きっとあなたのお気に入りが見つかるはず。

ストップペイルとともに、“あの頃” の記憶を呼び起こしてみませんか?

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ライター紹介

夏川 さほ

SEOライター、取材ライター

埼玉県生まれ、神奈川県在住。 4人の子育て真っ最中のママライターです! 忙しい毎日にほんのり癒しを与えてくれるようなお店探しがマイブーム。 にぎやかな場所より静かな裏道にあるお店が好き。 台東区の魅力をママ目線でお届けします♡
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