中部圏のイノベーションを育てる「Nagoya Innovator’s Garage」が名古屋で担う役割とは?新規事業人材と起業家を育てる現場を取材

名古屋・栄にある「Nagoya Innovator’s Garage」は、中部圏におけるイノベーション創出の拠点として2019年に誕生しました。

名古屋市と中部経済連合会が連携して運営するガレージには、大企業や中小企業で新規事業に取り組む人、起業を目指す人、学生、副業で自分のアイデアを形にしたい人など、さまざまな挑戦者が集まっています。

今回は、Nagoya Innovator’s Garageの設立背景から、現在の利用者の特徴、名古屋のスタートアップエコシステムにおける役割、今後の展望まで、統括マネージャーの伊藤敏樹様にお話を伺いました。

中部圏のイノベーション拠点として生まれたNagoya Innovator’s Garage

ーまず、Nagoya Innovator’s Garageが立ち上がった経緯を教えてください。

Nagoya Innovator’s Garageの構想が生まれた背景には、中部圏におけるオープンイノベーションの必要性がありました。

中部圏には、トヨタグループをはじめとする大企業や、ものづくりを支える企業が数多くあります。

これまでは各社が自社の中で開発や新規事業に取り組むことも多く、それぞれの企業が自前で新しい価値を生み出してきました。

しかし、社会の変化が速くなるなかで、自社だけで完結する開発には限界もあります。

外部の企業や人材、異なる技術や考え方とつながりながら、新しい事業や価値を生み出していく必要性が高まっていました。

そうした課題意識から、中部経済連合会と名古屋市が連携し、オープンイノベーションや新規事業創出に関するセミナーやプログラムを始めたことが、現在のNagoya Innovator’s Garageにつながっています。

Nagoya Innovator’s Garageの特徴の一つは、行政と経済界が連携して運営している点です。

名古屋市による公共的な支援機能と、中部経済連合会を通じた地域企業とのネットワークの両方を生かしながら、挑戦する人たちを支援しています。

ただ、会議室の中だけで学びや議論をしていても、イノベーションは生まれにくい。人が集まり、出会いや交流が生まれ、そこから新しい取り組みにつながっていくような「場」が必要だという考えから、2019年に現在のガレージの開設に至りました。

当初から目指していたのは、いきなり新規事業を生み出す場所というよりも、まずは人が集まり、学び、つながるための起点となる場所です。

現在は、事業会社で新規事業に取り組む人への支援と、起業家精神を育てるアントレプレナーシップ教育の2つを大きな柱にしています。

※アントレプレナー(起業家)…新しいアイデアや技術をもとに事業を立ち上げ、社会課題の解決や新たな価値創出に挑戦する人。

コワーキングではなく、学びと交流を生む「つながる場」

ーNagoya Innovator’s Garageは、一般的なコワーキングスペースとはどのような違いがありますか?

Nagoya Innovator’s Garageには、会員が利用できるコワーキングスペースがあります。4階は法人会員向け、3階は会員や一部プログラム参加者が利用できるエリアとして運用されています。

ただし、施設の主な役割は、コワーキングスペースとして作業場所を提供することではなく、中心にあるのは、プログラムやイベントを通して人が学び、交流し、新たなつながりを生み出すことです。施設では年間約400件のプログラムやイベントが行われており、平日や土曜日を中心に、ほぼ毎日のように実施されています。

新規事業に関するセミナー、自分のテーマを数か月かけて磨き上げるプログラム、起業体験のプログラム、交流会など、内容は多岐にわたります。

単に机や椅子がある場所ではなく、ここに来ることで新しい視点を得られる。普段は出会えない人と話せる。自分のアイデアを誰かに聞いてもらい、磨き直すことができる。

そうした体験を生むことが、Nagoya Innovator’s Garageの大きな特徴です。

実際に、利用者同士の交流もプログラムやイベントをきっかけに生まれています。アントレプレナー向けの交流会では、テーマに沿ったディスカッションや短いセッションの後、参加者同士が自由に交流する時間が設けられます。

大規模なものでは120人ほどが参加することもあり、そこでの出会いが後の事業化につながるケースもあります。

企業の新規事業担当者から学生まで、多様な挑戦者が集まる

※Nagoya Innovator’s Garage 4Fにある愛知県立芸術大学の卒業制作

ー実際には、どのような方が利用されているのでしょうか?

Nagoya Innovator’s Garageには、事業会社で新規事業を担当する人が多く集まっています。

大企業や中小企業の中で、新しい事業を立ち上げたい、社内のテーマを事業化したいと考える若手から中堅層まで、幅広い年代の方が利用しています。特に、新規事業を自分たちの手で引っ張っていきたいという意欲を持った人が多いです。

一方で、アントレプレナー向けのプログラムには、さらに幅広い層が参加しています。学生はもちろん、中学生や高校生が参加することもあり、年齢層は非常に多様です。

社会人の中には、本業を続けながら、副業や個人の取り組みとして自分のアイデアを形にしたいと考える人もいます。中でも実際に起業まで進む人は、30代から40代の社会人が多い傾向にあります。

「何かやってみたいけれど、どうすればいいかわからない」

「アイデアはあるけれど、事業として成立するのかわからない」

「会社の中で新規事業に取り組んでいるが、社内だけでは視野が狭くなってしまう」

何かやってみたいという思いを持つ人が、最初の一歩を踏み出す場所になればと思っています。

名古屋のスタートアップエコシステムにおける「入口」としての役割

ー名古屋のスタートアップエコシステムの中で、Nagoya Innovator’s Garageはどのような役割を担っていると感じますか?

Nagoya Innovator’s Garageの大きな役割は、挑戦の裾野を広げることにあります。

スタートアップ支援というと、すでに事業が立ち上がり、売上や資金調達を目指している企業を支援するイメージがあるかもしれません。

しかし、Nagoya Innovator’s Garageが特に力を入れているのは、スタートアップになる前の段階の層への支援です。

まだ会社を設立していない人、アイデアはあるけれど形にできていない人、技術はあるものの市場や顧客へのつなげ方がわからない人。そうした「スタートアップになりたい人」や「新規事業を生み出したい人」が、事業化のために必要な考え方を学ぶ場として機能しています。

技術やアイデアがあるだけでは、事業は生まれません。

その技術は誰のどのような課題を解決するのか。市場はどこにあるのか。どのように収益化するのか。どのような形で顧客に届けるのか。

そうした視点を持ちながら、アイデアを事業として成立させていく必要があります。

Nagoya Innovator’s Garageでは、プログラムやメンタリングを通して、参加者が自分の考えを見直し、磨き直していく機会を提供しています。

中部圏には、大企業や中小企業とのつながりという大きな強みがあります。中部経済連合会が関わる施設だからこそ、地域の企業との接点をつくりやすいことも特徴です。

新規事業を生み出したい企業人と、技術やアイデアを持つ起業家がつながることで、名古屋ならではのイノベーションが生まれる可能性があります。

名古屋で起業する魅力と課題

ー名古屋で起業する魅力や課題については、どのように感じていますか?

名古屋で起業する魅力の一つは、ものづくりを中心とした企業の厚みがあることです。

特に製造業や技術系のスタートアップにとって、自分たちの技術を活用してもらえる可能性のある企業が周囲に多いことは、大きな強みになります。

一方で、東京と比べると起業家の数や人の密度はまだ多いとはいえません。

名古屋には優良企業が多く、良い大学に進学し、安定した企業に就職することを望む文化も根強くあります。起業は魅力的な選択肢の一つではあるものの、まだ多くの人にとって当たり前の進路になっているとは言い切れません。

だからこそ、起業や新規事業を特別なものとして閉じるのではなく、将来の選択肢の一つとして知る機会が必要です。

Nagoya Innovator’s Garageでは、学生や社会人がアントレプレナーシップに触れることで、「企業に就職する」以外にも、「自分で事業をつくる」「会社の中で新規事業に挑戦する」という道があることを知るきっかけを提供しています。

ー名古屋のスタートアップ環境はここ数年でどのように変化していると感じますか?

近年は、AIを活用したアイデアを持ち込む人も増えている傾向にあります。一方で、裾野が広がるほど、単に「お金を稼ぎたい」という発想にとどまるケースも増えてきています。

その中から、本当に社会を変えたい、課題を解決したいという思いを持つ人をどう育てていくか。そこは、当ガレージにおける今後の重要なテーマになっています。

交流から生まれる事業と、実際の起業事例

ーこれまで印象に残っている事例はありますか?

印象的な事例の一つが、東海中学校・高等学校の先生による起業です。

生徒に起業やイノベーションを教える立場でありながら、自分自身が起業を体験したことがない。それでは十分に教えられないのではないかと考えた先生が、Nagoya Innovator’s Garageのプログラムに参加しました。

その後、実際にビール造りの事業(:株式会社Dragon Brewing)を立ち上げています。

Garage Challenge1st term STARTUP Dragon-Gate2024優勝チーム「株式会社Dragon Brewing」

教えるために、まず自ら挑戦してみる。その姿勢は、Nagoya Innovator’s Garageが大切にしているアントレプレナーシップそのものだと感じます。

また交流会で出会った人同士が、後に事業化へ向けて動き出すケースなど、施設内のつながりから生まれた事業も複数あります。

こうした場で生まれるつながりは、その場ですぐに成果につながるとは限りません。

ただ、一度出会っておくことで、後から別の形でつながり直すことがあります。今すぐではなくても、数か月後、数年後に新しい連携や事業につながる。そのためのつながりや余白も、コミュニティの価値の一つです。

ー利用者が成長していく過程を見ていて感じることはありますか?

統括マネージャーの伊藤敏樹様

利用者が成長していく過程を見る中で、アイデアが変化していく瞬間に手応えを感じます。

最初に持ち込まれるアイデアは、本人にとっては確かなものに見えていても、事業化に必要な要素の一部でしかないことがあります。

メンターからの助言や他者との対話を通して、「このままでは足りない」「別の方向に変えた方がいい」と気づき、考え方や事業の方向性を変えていく。

そうした変化は、挑戦者が一歩成長した証でもありますので、嬉しく感じますね。

事業会社の新規事業支援をさらに強化していく

ー今後、Nagoya Innovator’s Garageをどのような場所にしていきたいと考えていますか?

Nagoya Innovator’s Garageでは、今後もアントレプレナーシップ育成に取り組みながら、特に事業会社の新規事業支援をさらに強化していく方針です。

中部圏には、大企業や中小企業を含め、ものづくりを中心に大きな力を持つ企業が数多くあります。そうした企業の中から新規事業を生み出し、社会に出していくことは、名古屋や中部圏ならではのイノベーション創出につながります。

スタートアップとして単独で成長していくことももちろん重要です。しかし、名古屋の強みを生かすなら、スタートアップの技術や発想と、地域企業の事業基盤や顧客接点をつなげていくことも大切です。

Nagoya Innovator’s Garageは、その接点をつくる場所として、今後さらに存在感を高めていくのを目指しています。

特に、事業会社の新規事業担当者にとっては、社内だけで考え続けるのではなく、外に出て他社の取り組みや考え方に触れることが重要です。

会社の中では当たり前だと思っていた開発や事業づくりの進め方が、外に出てみると必ずしも一般的ではないと気づくこともあります。

視野を広げ、自社の外にある知見や人とのつながりを取り入れることで、新規事業の可能性は広がっていきます。

挑戦したい思いを形にするために

ー最後に、これから起業したい方や新規事業に取り組みたい方へメッセージをお願いします。

事業会社で新規事業に取り組んでいる方には、まず一度、社外に出て学んでみてほしいと思います。

社内では当たり前だと思っている開発や新規事業の進め方も、外から見ると異なる場合があります。他社がどのように取り組んでいるのか、どのようなノウハウや考え方があるのかを知ることで、自分たちの視野を広げられます。

Nagoya Innovator’s Garageのプログラムでは、そうした新たな気づきを得られる機会を提供しています。

また、起業に興味がある方や、「何かやってみたい」という思いを持っている方にも、ぜひ来ていただきたいですね。

まだ具体的な事業になっていなくても構いません。その思いをどう実現し、どうビジネスにつなげていくのかを体験できるプログラムがあります。

その先は、起業することだけが選択肢ではありません。その経験を生かして企業で新規事業に携わる道もありますし、学生の方であれば、就職だけでなく起業という選択肢があることを知るきっかけにもなると思います。

まずは、自分の思いを形にするために一歩を踏み出していただけたらうれしいです。

まとめ

今回の取材を通して印象的だったのは、Nagoya Innovator’s Garageが「起業したい人のための施設」にとどまらないという点でした。

起業を目指す人だけでなく、企業で新規事業に挑戦する人やアイデアを抱えた学生など、多様な挑戦者が集まり、学びや交流を通して新たな可能性を広げています。

また、中部経済連合会とのネットワークを生かし、地域企業とスタートアップをつなぐ役割も本ガレージならではの特徴です。

中部圏で新しい挑戦をしてみたい方や、新規事業に取り組むヒントを得たい方にとって、Nagoya Innovator’s Garageは、その第一歩を踏み出すきっかけとなる場所ではないでしょうか。

Nagoya Innovator’s Garage
住所:愛知県名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク4F
アクセス:地下鉄名城線「矢場町駅」6番出口より徒歩約5分
地下鉄東山線・名城線「栄駅」サカエチカ7番出口より徒歩約7分
営業時間:平日(月〜金)・祝日9:30 – 21:30 (入場21:00まで)
土曜日10:00 – 17:00 (入場16:30まで)
日曜日・ガレージの定める日は休館
※利用条件やプログラムの開催状況は、公式サイトなどでご確認ください。

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RENA

ライター

看護師・編集者としての経験を活かし、地域の人やお店の魅力を取材と執筆でお伝えしています。
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