【取材】営業は週2日のみ。地元の人が足繫く通う、下町の小さなパン屋さん「ゆうひ堂」|上野・浅草
台東区松が谷。上野と浅草に挟まれた、この穏やかな下町に、ひっそりとたたずむパン屋さんがあります。
言われないと気付かない、知る人ぞ知るパン屋さんですが、週2日の営業日めがけて近所の人たちが訪れる松が谷の人気者。
そんな「ゆうひ堂」の店主の方にお話を伺い、「ゆうひ堂」の魅力を深掘りしました。
目次
素材にこだわりぬいた自家製酵母パン
「ゆうひ堂という店名の由来を教えていただけますか。」
「ゆうひ堂」の店主の方(以下店主の方):もともと両親が同名の駄菓子屋さんを営んでいたので、その名前を引き継いで「ゆうひ堂」と名付けました。
「パン屋さんを始めることになったきっかけは何だったのでしょう。」
店主の方:もともといくつかのパン屋さんで働いていて、そのあとパン教室の先生をやっていたんです。その後、どこまで自分のパンが受け入れてもらえるか、という挑戦の意味もあって独立してパン屋さんを開くことになりました。
このあたりは人通りも少ないので、開店当初は静かだったのですが、地元の方の口コミのおかげで徐々にお客さんが来てくれるようになりました。
今は私の息子と娘が接客やパン作りを手伝ってくれています。
「お客さんはどのような方が多いですか。」
店主の方:基本的に木曜と土曜に営業しているのですが、曜日によって客層が異なりますね。木曜日は近くで働いていらっしゃる方が買いに来られることが多く、サンドイッチやお惣菜系のパンをよく買っていかれます。土曜日はお子さん連れの方が多いですね。
「こちらのお店では、自家製酵母を使用したパンを作っているんですよね。」
店主の方:はい。カンパーニュやマフィンなどに、レーズンから起こした自家製酵母を使っています。
「自家製酵母パン作りにおいて大変なことはありますか。」
店主の方:気温や天候、湿度などによって発酵が遅れることもあるので、扱うのが難しいですね。
「マフィンにもレーズンから起こした自家製酵母を使っていらっしゃるんですよね。自家製酵母パンはよく聞きますが、自家製酵母のマフィンって珍しいですよね。」
店主の方:そうですね。うちのマフィンはベーキングパウダーを使用していません。
そのため、普通のマフィンよりも膨らみが少ないのですが、他のマフィンに比べて中がしっとりした食感です。
そうなんですね。レーズンから起こした自家製酵母以外にも、パンや焼き菓子に使う素材にこだわりはありますか。
店主の方:全てのパンに「キタノカオリ」という小麦を使っています。
キタノカオリは甘みが強く、もちもち感が出るんですよ。この小麦は他の小麦と比べて雨と病気に弱いため、希少な小麦粉なんです。
生産者も少なく、取り扱っている業者も少ないので最初は苦労しました。
当店の食パンはキタノカオリと別の国産小麦をブレンドしているのですが、「パンド・ミー」という商品はキタノカオリを100%使用しています。
今では「パンド・ミー」しか買わないお客さんもいるほどの人気になりました。
そんな希少な小麦を贅沢に使用しているんですね!小麦粉以外の素材にはどんなこだわりがありますか。
店主の方:塩パンやあんバターに使用しているバターはカルピスバターです。
小麦粉だけでなく、卵や牛乳も国産のものを使用しています。小さいお子様連れのお客様も多いので、安心して食べていただけるよう素材にこだわっていますね。
クリームパンのカスタードクリーム、チョコクリームパンのチョコクリーム、あんぱんの粒あんも自家製です。甘すぎないので、お子様も安心して食べていただけると思います。
キーマカレーも自家製なんですよ。できるだけ既製品を使わずに手作りしています。
素材にこだわったパンは、小さいお子様がいるご家庭も安心ですね。
小さい店だからこその強みを活かして。お客さんに対する真摯な姿勢
小さなお店ですが、パンの種類がとても豊富ですね。メニューはどのように決められたのですか。
店主の方:焼きキーマカレーやチーズパンは試作した段階から美味しくできたので、初期からメニュー入りしていたんです。
店主の方:ですが、お客さんの声を取り入れてパンの数は徐々に増えていきました。
例えば人気商品のデニッシュも、お客さんの意見を取り入れて始めたものなんです。
お店を始めた当初、「クロワッサンないの?」と聞かれることが多くて。当時はフルーツを使ったパンもだしていなかったので、じゃあ作ってみようということになりました。
そしていちごとりんごのデニッシュを始めた結果、好評を博したので、新しいデニッシュも作り始めたんです。
焼き菓子についても、もともとはマフィンがメインでした。
ですが、クッキーないの?とお客様に聞かれたので、オートミールクッキーやブラウニーといった焼き菓子も作るようになったんです。
先日は「ブラウニー全部ください」と全部買ってくださった常連さんがいました。たくさん買って知り合いに渡される方も多いみたいです。
お客さんの声に柔軟に対応できるのは、小さなお店だからこそですね。また、小さなお店だからこそできることは他にも。
店主の方:やっぱりパンは焼き立てが美味しいので、できる限り開店時間ぎりぎりに焼きあがるように調整しています。
また、一度に一気に焼くのではなく、何回にも分けて焼くことで常に焼き立てのパンを用意できるようにしています。サンドイッチも注文を受けてからお作りしています。
多くの種類を少しずつ焼くことができるのは、小さなパン屋さんならでは。
できるだけベストな状態で食べてもらいたいという素敵な心遣いを垣間見ることができました。
一度食べるとまた食べたくなる。老若男女が虜になるパン
このお店のパンの特徴が「一回食べるとリピートしたくなる」ということ。
例えばある常連さんは「『トライアングル』というパンは、最初は何だろう?と思って食べていなかったけど、一回食べてみると美味しくて、購入するようになった」とのこと。
別の常連さんは、「もともとパンがそんなに好きではなかったけど、一度食べてみたら美味しくて何度も買っている」とのことでした。
取材の際に驚いたのが、リピーターの多さ。
取材の日は雨が降っていたにもかかわらず、近所に住んでいらっしゃる常連さんがひっきりなしに訪れていました。
そしてどのお客さんも、私が話しかけると気さくに自分の好きなパンを教えてくれました。
ほとんどのパンを制覇したという常連さんは「アンチョビとオリーブのパンは、お酒にもぴったり。
フォカッチャも好きだな。紅茶のマフィンも美味しいよ。一つに絞ることができない!どれも美味しい!」と。その方はご友人用にもパンを買ってらっしゃいました。
別の方は「週2日の営業日必ず来ています。家族揃ってファンなんです。」とのこと。
初めて来店した方が「パンドミって何だろう?」とつぶやくと「パンドミはね…」と常連さんが説明している光景も見られました。
「お客さんが代わりに接客してくださることもあるんですよ。ありがたいですよね。」と店主の方。
下町らしい、温かいやり取りに心がほっこりしました。
そしてもう一つ驚きなのが、その価格。
別の常連さんは「小ぶりでお手頃価格なので、小腹が空いたときについつい買ってしまうんです」とほほ笑んでいました。
一つ一つのパンが大きすぎないので、いろいろな種類を食べ比べられるのもうれしいですね。家族で食べたり友人に分けたりするようで、10個近くパンを買っていかれる方も多くいらっしゃいました。
そんなゆうひ堂は、もうすぐ開店一周年。
店主の方は、「『何度も通いたい』と思えるパン屋さんにしていきたいですね。美味しいパンを届けるスタンスを変えず、地道に続けていけたら良いなと思います。」と話してくれました。
様々な方に愛されていることが伺える、まちの小さなパン屋さんでした。そんなゆうひ堂のパンを一部ご紹介します。
1人で10個購入する人も!リピーター続出の塩パン
お店の人気メニューのひとつが塩パン。
私が取材した日、家族揃ってファンだという常連さんはなんと10個も購入していました!
聞けば、木曜日にも10個購入したのだとか。そんな塩パンは温めてから食べると外はカリッと、中はしっとりのコントラストを楽しめます。
噛みしめるとバターのうまみがじゅわ~っと口いっぱいに広がります。上にかかった塩のしょっぱさもたまりません。
旬の果物を使用したデニッシュ
きらきら輝くブルーベリーがまるで宝石のよう!みずみずしいブルーベリー、心地よい酸味のチーズクリーム、バターの風味豊かなデニッシュ生地が三位一体となっています。
中には甘酸っぱい自家製ブルーベリージャムも入っており、ブルーベリーの美味しさを存分に味わえます。
しっとり感が魅力の酵母マフィン
オレオの見た目がインパクト大の、オレオ&ヌテラのマフィン。
マフィンの生地はみっちり&しっとりしていて、小さめサイズでも食べ応え十分。
控えめな甘さで小麦の風味をしっかり感じられる生地が、中に入った濃厚ヌテラ&トップのしっとりオレオと相性抜群です。
新しいのに懐かしい?密かな人気を誇る「トライアングル」
私が一番気になっていたのが、このトライアングル。一体どんな味なのか、見た目から全く想像がつきません。
外側のクッキー生地は甘くさっくりした食感です。そしてしっとりしたパンの中にはクリームチーズ!クッキー生地の甘さと中のチーズの塩気のバランスが絶妙です。三角形の端っこ部分がカリッとした食感なのも、良いアクセントに。なんだかメロンパンとフレンチトーストを組み合わせたかのような新しい味と食感なのに、どこか懐かしさを覚えます。
ゆうひ堂
住所:東京都台東区松が谷2丁目5−9
営業時間はインスタグラムから
▼ゆうひ堂Instagram