川端康成も愛した谷中の老舗。静かな時間が流れる「御菓子司 喜久月」で和菓子を味わう
谷中を歩いていると、ときどき「時間の流れ方が違う」と感じる場所に出会います。
大通りに面した一角に、静かにのれんを掲げる「御菓子司 喜久月」も、そんなお店のひとつでした。
以前から何度も前を通っていて、ずっと気になっていた和菓子店です。
きっかけは、ふと調べものをしていた時に見つけた、あるエピソードでした。
文豪・川端康成が、喜久月の「あを梅」を好み、奥様がよく買いに来ていたという話です。
「なんだかわからないけれど、すごい」
そして、「同じものを食べてみたい」。
そんな気持ちになり、谷中散歩の途中で立ち寄ってみることにしました。
最近は、谷中や根津のあたりでも、長く続いた老舗が静かに暖簾を下ろすことがあります。
だからこそ、「いつか行こう」ではなく、「行きたいと思った時に行こう」と思ったのです。
谷中の街に、静かに溶け込む老舗和菓子店

喜久月があるのは、谷中六丁目。
目の前には車通りのある大きな道が走っています。
けれど、お店の前に立つと、不思議と空気が少し静かになる気がしました。
休日の午後。
散歩の途中で立ち寄ると、先客がひとり。入れ違いのように店を出ていき、帰る頃にはまた別のお客さんが入ってきました。
観光地のような賑わいではなく、近所の人や散歩の途中の人が、自然と吸い込まれていくような雰囲気です。
店先に立った瞬間から、もう「いい店だ」とわかる。
そんな空気がありました。
昭和にタイムスリップしたような店内

のれんをくぐってまず驚いたのは、店内の空気感です。
古い木の戸棚。
昔ながらのガラスケース。
ノスタルジックなワゴンに並ぶおせんべい。
まるで昭和にタイムスリップしたような空間でした。
「エモい」という言葉で片づけるには、少しもったいない気もします。
懐かしい、と感じるか。
静かで美しい、と感じるか。
それは訪れる人の年代によって違うのかもしれません。
印象的だったのは、昔ながらの店構えなのに、とても清潔だったことです。
古いお店というより、「大切に時間を重ねてきた店」という感じ。
店内に入った瞬間が、この日いちばん感動した瞬間だったかもしれません。
記事にする予定がなかったとしても、きっと夢中で写真を撮っていたと思います。
川端康成も愛した「あを梅」

今回いちばん気になっていたのが、「あを梅」です。
川端康成が愛した和菓子として知られていて、奥様がよく買いに来ていたそう。
名前からして、最初は「梅味のお菓子なのかな」と思っていました。
けれど、実際に食べてみると、まったく違いました。

まず驚くのが、中の“みそあん”。
口に入れた瞬間、味噌の風味がふわっと広がります。
かなりしっかり「味噌」です。
それなのに不思議と上品で、ちゃんと和菓子としてまとまっている。
皮は薄く、一見すると繊細なお菓子なのですが、味わいにはどこか素朴さもあります。
これは確かに印象に残る味。
一口でぱくっと食べるのがもったいなくて、少しずつ味わいたくなる和菓子でした。
見た目もとても美しく、本当に小さな青梅のよう。
かわいらしさと奥ゆかしさが同居しているようなお菓子です。
ゆずの香りがふわっと広がる「ゆず餅」

もうひとつ印象的だったのが、「ゆず餅」。
これが、驚くほどやわらかい。
持った瞬間からやさしく沈むような柔らかさで、口に入れると、ゆずの香りが一気に広がります。
中には細かなゆずの皮も入っていて、香りだけでなく風味もしっかり“ゆず”。
名前そのままの、「ゆずを味わう餅」です。
甘さもやさしく、重たさがありません。
するすると食べられてしまうので、気づいたらもう一個食べたくなっていました。
お茶と合わせるのはもちろんですが、散歩の途中にいただく和菓子としてもぴったりだと思います。
甘さが追いかけてくる「きんつば」

きんつばも購入しました。
こちらは川端康成とのエピソードを見つけたわけではありませんが、ガラスケースの中で妙においしそうに見えて、気になってしまった一品です。
食べてみると、まず感じるのは、あんこの密度。
ずっしりしています。
一口目は、「意外と甘さ控えめ?」と思いました。
けれど、そのあとから、しっかりと甘みが追いかけてきます。
時間差でやってくる甘さ。
甘党の人にはたまらないタイプのきんつばだと思います。
しっかり甘いのに、不思議と古臭さがない。
昔ながらの和菓子なのに、今食べてもちゃんとおいしい。そんな印象でした。
谷中散歩の途中で、静かな時間を味わう

谷中には、行列のできる人気店もたくさんあります。
けれど喜久月は、「急いで消費する」のではなく、静かに味わいたくなるお店でした。
昔から続いてきた空気。
丁寧に守られてきた店内。
そして、変わらず並び続けている和菓子たち。
派手ではないけれど、確かに記憶に残ります。
谷中を散歩するとき、少しだけ静かな時間を過ごしたくなったら。
ぜひ立ち寄ってみてください。
御菓子司 喜久月
住所:東京都台東区谷中6-1-3
営業時間:9:00~17:30
定休日:火曜日
※営業時間・定休日は変更となる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。










