湘南で生まれた「湘南和蝋燭」。思い通りにならないから、おもしろい。時間を忘れて没頭するワークショップ
「湘南和蝋燭(ろうそく)」は、神奈川県・湘南を拠点に活動する和ろうそく作家・メリアさんのブランドです。原料は、櫨(はぜ)の実から採れる木蝋(もくろう)。灯芯にはい草の髄(ずい)や真綿が使われ、一本のろうそくの向こうに、いくつもの手仕事が連なっています。
メリアさんは、和ろうそくに出会い、その世界へと引き込まれていきました。今ではワークショップやロウで描くアートなど、活動の幅を広げています。
今回は筆者も和ろうそくワークショップに参加。その体験レポートと、和ろうそくとの出会いから今後の展望まで、お話を伺いました。
ワークショップに参加!
正直、和ろうそくとキャンドルの違いも知らなかった筆者。座学で教わった中で印象に残ったのは、ロウ垂れが少なく、燃えるとすべて気体になって「無になる」というお話でした。
汚れないという実用的な良さはもちろんですが、それ以上に神秘的な魅力を感じました。風にも強く、植物性のロウはススも出にくい。そんな点にも、昔からある日本のものづくりの素晴らしさが表れています。

40~60度のロウをただひたすらにこすりのばしていく作業では、手の癖によって一人ひとり違いが出ます。それがまた味になり、自分だけの1本になる。忙しい毎日の中で、時間を忘れるほど一つのことに没頭するのは、瞑想に近い感覚でした。終わる頃には、心が穏やかに。
「最初の1本は、みなさん灯すことができずに大切に持っているそうです」とメリアさんが話していましたが、私も同じ気持ちになりました。この1本は、きっと使えません。つくるまでの手間暇を知ったからこそ、物を大切に使うことの原点に触れられた気がしました。
ロウに、なぜここまで惹かれるのか。作家のメリアさんにお話を伺いました。

一冊の本が、和ろうそくへ導いた
「和ろうそくと出会ったきっかけを教えてください。」
最初のきっかけは、一冊の本との出会いでした。2022年の1月に息子を産んで、少し後に、たまたま書店で和ろうそくの本を見かけたんです。表紙のろうそくがすごくきれいで、自然と手に取っていました。
その1年後に娘を産んだんですが、コロナでウェディング需要が下がり、ウェディング向けに立ち上げたキャンドル事業が大失敗してしまって。
そんな時に、和ろうそくが危機的な状況にあるというネットの記事を見つけました。そこに、あの本が紹介されていたんです。もともとキャンドルを作っていてロウが好きだったこともあり、記事の内容が頭から離れませんでした。

「そこから、どのように和ろうそくを学ばれたのですか。」
気になっていたものの、今から職人さんにはなれない。どうやって習えばいいんだろうと漠然と思っていたんです。そうしたら偶然、千葉に住んでいる親友から、キャンドル作家のAtelier KANAさんが和ろうそくを教えていると聞きました。
「これだ!」と思い、すぐ夫にお願いして子ども2人を預け、千葉まで学びに行きました。その方が今の師匠です。
「すぐに仕事にできるものなのですか。」
なかなかまっすぐ作れないですね。売り物としてのクオリティを自分の中で決めていて、初めてワークショップを開くまでは、ひたすら練習を重ねました。
今の時代だからこそ、大切にしたいものづくり
「そこまで惹きつける和ろうそくの魅力は、何だったのでしょうか。」
今の時代に忘れ去られてしまった日本が、凝縮されているなと思ったんですよね。昔は、暮らしの道具が壊れたら直す人がいて、使い終わっても何かにつながっていました。
でも今は、コスパ、タイパが正義のようになっていると感じています。私も、会社で働いていたときはそれに飲まれていましたし、それが悪だとも思いません。ただ、毎日がなんとなく過ぎていく感覚はありました。
「和ろうそくの世界は違ったのでしょうか。」
和ろうそくには、いろんな手仕事をした人の努力が全部詰まっています。灯芯には蚕の繭(まゆ)からつくられた真綿が使われていますが、その蚕を育てている人がいる。い草を育てる人がいて、その中から髄を引く人がいる。
ひとつのものづくりの中に、作っている人たちの顔が見えるんですよね。それが純粋に「日本の美しさだな」と思えました。

「一つひとつの工程の背景を含めて、美しさを感じたのですね。」
そうなんです。だからこそ、ただ和ろうそくを作って「楽しかったですね」で終わりではなく、バックグラウンドまで理解していただきたい。ワークショップで最初に座学を取り入れているのはそのためです。

「湘南」に魅せられて生まれた、自分だけのブランド
「ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。」
ワークショップを始めて、合計で120〜130人ほどの方にご参加いただきました。「先生が作ったものを販売しないんですか」というお声もいただけるようになって。ただ、そこに自分らしさをどう入れ込むかが見つからず悩んでいました。
全国には、和ろうそくだけを毎日作っている職人さんたちがいます。その中で、私にしかできない動き方があるんじゃないかと考えるようになりました。

「その結果、「湘南」をテーマにブランドを作られたのでしょうか。」
私は湘南に移住してきて、湘南の自然が好きで、湘南の人が好きなんですよね。だったら、シンプルに湘南をテーマにした和ろうそくを作ろうと。関東は和ろうそくにあまり馴染みがない一方で、湘南はナチュラルなものやオーガニックが好きな方がとても多い。だからこそ、刺さるのではないかと思ったんです。
地域活性化の思いも込めて、湘南で活動するカメラマンさんとつながったり、湘南の農家さんの野菜やコーヒー屋さんのコーヒーかすで色をつくったり。とことん湘南縛りで活動しています。

「色まで自分でつくられているんですね。」
そもそも、自然顔料は売っていませんし、全て手づくりがいいんですよね。赤色は湘南のローゼル農家さんからいただいたローゼルで、バタフライピーも湘南の農家さんから。マコモダケは大磯で栽培されているものです。いろいろなところから少しずついただいて、それぞれの色をつくり、ろうそくを染めています。
野菜の端材やコーヒーかすのように、本来なら捨てられるものが色になって、ろうそくに宿る。自然の循環を大切にしたいという思いはもともとありましたが、湘南に来てから、さらに強くなりました。

ロウは、思い通りにならない。だからおもしろい
「現在はどんなレッスンがあるのでしょうか。」
自宅とレンタルスペースでのレッスンです。自宅は今のところ2名まで、レンタルスペースは4名まで可能です。詳細はInstagramにてお知らせしています。
「和ろうそく以外のワークショップもされているとうかがいました。」
私は「メリア」という屋号でやっていて、その中の一つが木蝋を使った「湘南和蝋燭」なんです。それ以外にも、ただただロウが好きという気持ちがあって。ロウでアート作品を描いたり、ロウと自然素材を組み合わせてみたり。
コーヒーかすを使ったロウアートもそうですし、白檀(びゃくだん)を蒸留し終わった後の残渣(ざんさ)をロウと混ぜ合わせるイベントも企画しています。

伝統を未来に残すために
「原料そのものにも課題があるとうかがいました。」
木蝋をつくっている工場は、長崎と福岡のみです。しかも、原料の櫨の実をちぎる職人さんも少なくなってきています。私がいくら広めても、原料がなくなれば存続が難しい。
だからこそ、できることはやりたいと思い、湘南に植樹もしました。今年の冬には九州まで行って、櫨の育成の研修を受けます。九州の方とつながって学び、こちらでできることを模索していきたいです。
一人でも多くの方に和ろうそくの魅力を知っていただき「櫨ちぎりに行きたい」「手伝いたい」と思う人が出てきてくれたら、うれしいですね。
「今後の展望を教えてください。」
「伝統工芸を守る」「継いでいく」という壮大な話の前に、身近な成功事例をつくることが大事だと考えています。「こういう生き方もあるんだ」「私もああなりたい」と思う人が出てこない限り、どんなことも続いていかない。
私は職人ではありませんが、伝統工芸を少しでも広めるこの生き方が成功事例になればいいですね。それが和ろうそくにつながっても、他の伝統工芸につながってもいい。私の姿を見て「やってみたい」と思ってくれる人を増やしていきたい。その気持ちが一番です。

湘南から灯す、日本の美しさ
取材の中で印象に残ったのは、和ろうそくを通して日本の素晴らしさを伝えたい、という思いの強さでした。伝統工芸を守ると言うと壮大に聞こえます。しかしメリアさんは、座学で背景を伝え、自然の循環を大切にしながら湘南の色をまとわせる。そんな自分なりの方法で、一歩を踏み出しています。
日本の伝統工芸の奥深さを知り、時間を忘れて没頭する感覚を味わいたい。日本の灯りの美しさに触れてみたい。そう感じたら、ぜひ「湘南和蝋燭」のワークショップに足を運んでみてはいかがでしょうか。
湘南和蝋燭/メリア
作家:メリアさん
拠点:神奈川県・湘南(自宅アトリエ/レンタルスペース)
活動内容:和ろうそくづくりのワークショップ、ロウアートのワークショップ、和ろうそくの制作・販売、マルシェ出店
オンラインショップ:冬期を中心に期間限定でオープン
詳細・最新情報:Instagram(@meria_alst)にて確認

森田かえ
取材ライター

