上野の国立西洋美術館で「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」 — ゴヤやマティスにも影響を与えた巨匠の挑戦の跡をたどる

17世紀オランダの巨匠レンブラントは、「光の魔術師」として世界中の人々に知られています。「夜警」や「テュルプ博士の解剖学講義」といった代表作は、教科書や美術書で一度は見たことがあるのではないでしょうか。

しかし、レンブラントは油彩画だけでなく、版画においても時代を超える革新的な芸術家でした。 2026年7月、国立西洋美術館(東京・上野)で、アムステルダムのレンブラント・ハウス美術館の所蔵作品を中心に約130点の作品が集結する、大規模展覧会「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が開催されます。

本展は、レンブラントの版画作品が、後世に与えた「インパクト」に注目する国内初の展覧会です。ゴヤ、ホイッスラー、マティス、ピカソなど後世の巨匠たちに与えた影響を、ぜひ会場で確かめてみてはいかがでしょうか。

レンブラントとは?——版画に革命を起こした17世紀の巨匠

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン(レイデン、1606-アムステルダム、1669年)の名は、オランダ黄金時代の巨匠として世界に知れ渡っています。しかし、油彩画の陰に隠れがちな「版画家レンブラント」の姿こそが、本展の主役です。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《自画像、口を開けた顔》1630年 エッチング レンブラント・ハウス美術館

詩人で批評家のテオフィル・ゴーティエが「油彩以上に色彩豊か」と絶賛したレンブラントのエッチング(腐蝕銅版画)作品の数々は、単なる複製技術の枠を超え、光と影の劇的な対比や繊細な線の表現によって、版画という芸術の可能性を飛躍的に高めました。

レイデンの裕福な製粉業者の家に生まれ、有力画家ピーテル・ラストマンに師事したレンブラントは、1631年にアムステルダムで肖像画家・物語画家として成功を収めます。しかし1642年に代表作である《夜警》を完成させたのち、妻との死別や破産など多くの苦難に直面していきます。それでもエッチング制作だけは生涯にわたって継続し、その旺盛な実験精神が生み出した版画群は、数世紀の時を超えて、今なお世界中の芸術家たちを魅了し続けています。

「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」の見どころ

見どころ1: レンブラントの”挑戦”——版画表現の可能性を拓く

第1章「版画家レンブラント」では、彼がいかにエッチング技法の可能性を切り開いたかを5つのセクション(肖像と頭部習作/無宿者と市井の人々/キリスト教主題/スケッチ/風景)で丁寧にたどっていきます。

なかでも必見は、国立西洋美術館が所蔵する《百グルデン版画》(1648年頃)。『マタイによる福音書』の複数のエピソードを一画面に同時進行で描いたこの作品は、線が生み出す深い闇と水墨画のような白い光の表現が合わさる、エッチング史上屈指の傑作と称されます。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《百グルデン版画》1648年頃 エッチング、ドライポイント、ビュラン/和紙 国立西洋美術館

《エジプト逃避途上の休息》と《夜間のエジプトへの逃避》は、旅の途中の聖家族を主題とした静謐な作品です。似た場面が描かれているにも関わらず、一方はスケッチ風に、もう一方は深い闇の中の風景を描いています。同じエッチングという技法を用いているものの、その表現の違いにレンブラントの技術と挑戦を垣間見ることができます。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《エジプト逃避途上の休息》1645年 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《夜間のエジプトへの逃避》1651年 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館

また同じく国立西洋美術館所蔵の《書斎の学者(ファウスト)》や《三本の木》といった作品も一挙公開となります。これほどのレンブラント版画が集う機会は、そうそうありません。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《書斎の学者(ファウスト)》1652年頃 エッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《三本の木》1643年 エッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館

見どころ2: レンブラントの”インパクト”——ゴヤ、マティス、ピカソも憧れた巨匠の系譜

展覧会の後半(第2・3章)では、レンブラントが後世に与えた計り知れない影響を掘り下げていきます。17〜18世紀にはイタリアやドイツの作家たちが彼の様式を模倣し、その技法が受け継がれていきました。

19世紀フランスではエッチング復興(リヴァイヴァル)の旗手として再発見されます。1862年の腐蝕銅版画協会設立でその熱気はクライマックスを迎え、レンブラントはその理想の体現者として広く影響を与えていきます。

この展覧会は、そうした影響の大きさを、実際の作品を比較することで体感できるのが大きな魅力です。たとえばゴヤの《〈戦争の惨禍〉79:真理は死んだ》とレンブラントの《使徒たちに現れるキリスト》を並べることで、構図や光にその影響が浮かび上がります。

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス
《〈戦争の惨禍〉79:真理は死んだ》1810-20年頃 エッチング、バーニッシャー/ウォーヴ紙 国立西洋美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン
《使徒たちに現れるキリスト》1656年 エッチング レンブラント・ハウス美術館

見どころ3:レンブラント専門美術館「レンブラント・ハウス美術館」との共同企画

アムステルダムの運河沿いに立つレンブラント・ハウス美術館は、レンブラントが1639年から1658年まで実際に暮らした家を利用した、世界で唯一のレンブラント専門の美術館です。
その世界有数のコレクションに、国立西洋美術館のレンブラント版画コレクション、さらに国内外から借用した作品・書籍を加えた約130点が一堂に会します。

レンブラント・ハウス美術館外観 Photo by Mike Bink

常設展示も見逃せない! 涼しい夕方以降を狙うのもおすすめ

夏休み期間中の開催とあって週末は混雑が予想されますが、金曜日と土曜日は20:00まで夜間開館(入館は19:30まで)しているので、涼しい夕方以降の来館もおすすめです。また、観覧当日であれば、本展のチケットで常設展もあわせて楽しめるのも嬉しいポイント。参加費無料のトークや講演会も予定されているので、そちらもあわせてチェックしてみてはいかがでしょうか。

夏休みに静謐な時間を過ごすなら、国立西洋美術館の企画展へ

油彩画の巨匠として知られるレンブラントが版画の世界でも大きなインパクトを与えていた、そんな発見と驚きが待つ本展は、この夏、見逃せない展覧会のひとつです。会期はシルバーウィーク最終日の9月23日まで。夏休みの芸術体験に、ぜひ国立西洋美術館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

開催概要&アクセス

展覧会名:版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト
会期:2026年7月7日(火)〜 9月23日(水・祝)
会場:国立西洋美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園7番7号
開館時間:9:30〜17:30(金・土曜日は〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、7月21日(火)※ただし7月20日(月・祝)、8月10日(月)、9月21日(月・祝)は開館
入場料:一般2,200円、大学生1,300円、高校生1,000円(中学生以下・障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料)

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鶴丸 明

アートの仕事に10年以上携わりながら、台東区の美術館・博物館・ギャラリーを日常的に巡っています。アートを「詳しい人のためのもの」にとどめず、初めての方でも気軽に楽しめる見どころや鑑賞のポイントを紹介。上野・御徒町・浅草エリアを中心に、展覧会レビューや美術館、カフェ、本屋などをつなぐ街歩き情報を発信します。

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