狩野山雪の幻の名作が来日|上野・東京国立博物館で「絵巻と絵本のたからばこ」展開催

古い日本の「絵巻」や「絵本」をアイルランドの実業家が収集していた、ということをご存知でしょうか?

平安時代から江戸時代にかけて発展した「絵巻」や「絵本」は、物語を絵とともに楽しむ日本独自の表現で、現代の児童書や絵本、漫画の源流ともいえる存在です。

戦前に日本を訪れ、そうした作品に魅了されたアルフレッド・チェスター・ビーティー卿は、数々の名品を蒐集しました。
そんな貴重なコレクションが、この春、東京国立博物館にやってきます。

アルフレッド・チェスター・ビーティー卿(1875〜1968)は、アメリカ生まれのアイルランド系の実業家です。

鉱山開発で財を成し、世界各国の美術作品の収集をはじめると、1917年に日本を訪れ、絵巻や絵本に代表される物語絵に魅了されます。

現在、そのコレクションはダブリンにあるチェスター・ビーティー図書館に所蔵され、ヨーロッパ随一の絵物語のコレクションとして知られています。

「絵巻と絵本のたからばこ」展の見どころ

今回来日するのは、普段はアイルランド以外でなかなか見ることができない貴重な作品ばかり。日本でまとまって紹介されるのは、1988年以来、約40年ぶりとなります。

なかでも注目は、狩野山雪による《長恨歌絵巻》。
江戸時代初期に活躍した山雪は、装飾的かつ幾何学的な画面構成をもった独自の画風で知られる狩野派の絵師。本作でもその個性が存分に発揮されています。

また、この作品は「在外日本古美術品保存修復協力事業」によって修復されたもの。日本とアイルランドの芸術を通じた交流を象徴する作品でもあります。

展示のハイライト|物語でたどるチェスター・ビーティーコレクション

この展覧会は日本の物語文化に関する6つのテーマで構成されます。
ここでは主な5つのテーマをご紹介します。

チェスター・ビーティーの至宝|狩野山雪《長恨歌絵巻》

まずは、今回の展覧会の目玉である狩野山雪の《長恨歌絵巻》。
唐の詩人・白居易が玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋物語を描いた漢詩「長恨歌」をもとに制作された作品です。
物語が横へと展開していく絵巻ならではの鑑賞体験と、緻密で装飾的な表現は圧巻。

狩野山雪筆 長恨歌絵巻(巻上、部分)江戸時代・17世紀 絹本着色 チェスター・ビーティー蔵 (展示期間:4月27日(月)~6月7日(日))

王朝貴族のラブロマンス

王朝物語は、天皇や貴族を主人公とした恋愛を描いた物語です。
和歌のやり取りがストーリーの軸となり、平安時代に発展した仮名文字とともに広がっていきました。

本展では、江戸の元禄期に描かれた《源氏物語絵巻》を紹介。金砂子をふんだんに使った豪華絢爛な大型の絵巻で、格式高い場で鑑賞されていたことが窺える作品です。

源氏物語絵巻(巻一、部分)江戸時代・元禄元年(1688)頃 紙本着色 チェスター・ビーティー蔵

過去の物語に学ぶ

チェスター・ビーティーコレクションは、他に類例のない説話物語や軍記絵巻も多数所有しています。

説話物語は民間に伝わる短編の話を集めた文学ジャンル。軍記絵巻は歴史上の合戦や武士の活躍を描いた物語絵巻です。
こうしたテーマは、過去の出来事から教訓を得るという役割がありました。

室町時代の作とされる《武蔵坊弁慶縁起絵巻》では、源義経と弁慶の活躍が描かれており、当時の人物表現にも注目です。

武蔵坊縁起絵巻(巻中、部分) 室町時代・16世紀 紙本着色 チェスター・ビーティー蔵

異類に出会い、異界をめぐる

室町時代以降に広まった御伽草子には、庶民を主人公とした物語も多く含まれます。
なかでも動物や鬼といった異類が登場する世界観は、アイルランドの動物や妖精の物語と通じるものがあります。
チェスター・ビーティー卿が日本の異類や異界の物語絵に興味を持った理由もそういったところにあるのかもしれません。

《酒呑童子絵巻》では、こうした異界の物語が独創的な表現で描かれます。

酒呑童子絵巻(巻下、部分) 江戸時代・17世紀 紙本着色 チェスター・ビーティー蔵

人と自然を愛でる

なかには、自然を描いた絵巻もあります。
一見、物語には見えない四季の移ろいや自然の美しさを描いた作品にも、添えられた和歌から人々の営みを感じることができます。

伊藤若冲が京都から大阪まで淀川下りをした経験をもとに制作した版画巻が紹介されています。 美しい幻想的な作品をぜひ、会場でご覧ください。

伊藤若冲筆 乗興舟(部分) 江戸時代・明和4年(1767)頃 紙本拓版 チェスター・ビーティー蔵

上野で出会う、時を越えた物語

遠くアイルランドの地で愛された日本の絵巻が、再び日本へと戻ってきます。
数百年の時を超え、数千キロの距離を旅してきた物語と出会える機会は、そう多くありません。
上野で、絵物語の世界に没頭するひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

この展覧会は、東博コレクション展の観覧料で観覧することができます。高校生以下など無料枠も大きいので、ご家族連れでじっくりと日本の歴史と文化に触れるのもおすすめです。

基本情報&アクセス

会期: 2026年4月27日(月)〜 7月20日(月・祝) ※会期中一部展示替えがあります。
会場: 東京国立博物館 本館

休館日: 月曜日(ただし4月27日(月)、5月4日(月・祝)、7月20日(月・祝)は開館)
時間: 9:30~17:00 金曜・土曜、5月3日(日)~5月5日(火・祝)、7月19日(日)は20:00まで開館
観覧料:本展は東博コレクション展観覧料でご覧いただけます。[一般]1,000円、[大学生]500円、[高校生以下、満18歳未満、満70歳以上、障がい者とその介護者各1名]無料
アクセス: JR「上野駅」公園口・「鶯谷駅」南口から徒歩10分。東京メトロ「上野駅」「根津駅」、京成電鉄「京成上野駅」から徒歩15分

Images courtesy of the Trustees of the Chester Beatty Library, Dublin.

\この記事をシェアする/

鶴丸 明

アートの仕事に10年以上携わりながら、台東区の美術館・博物館・ギャラリーを日常的に巡っています。アートを「詳しい人のためのもの」にとどめず、初めての方でも気軽に楽しめる見どころや鑑賞のポイントを紹介。上野・御徒町・浅草エリアを中心に、展覧会レビューや美術館、カフェ、本屋などをつなぐ街歩き情報を発信します。

  • facebookx
  • 人気エリアから探す

    ランキング


  • facebookx