戸塚で「パンを日常の主食に」。フランス仕込みの技術と、自家製酵母へのこだわりが光る「HORIDAY」
横浜市戸塚区、戸塚駅から少し歩いた場所に、フランスでの経験をもとに旬の食材と自家製酵母「ルヴァン」にこだわったパンが並ぶお店があります。パンを日常の主食に、身近な食べ物にという思いを大切にし、美味しいパンを届けることを追求する「HORIDAY」。2022年11月2日のオープン以来、多くの常連客に愛されています。
店内には、常時40種類ほどのパンがぎっしり。店主は、パン職人の堀 正拓(まさひろ)さん。横須賀の町のパン屋から始まり、東京・六本木の名店「ジョエル・ロブション」(以下、ロブション)、そしてフランスでの修行「獺祭(だっさい)ジョエル・ロブション」のシェフを経て独立に至ったそうです。今回は堀さんに、パン職人としての歩みとパンへのこだわりについて、たっぷりとお話いただきました。

母とのバターロール作りから始まった、パン職人への夢
「小さい頃からパン職人になりたいと思っていたのでしょうか。」
そうですね。小学校5、6年生ぐらいのときに、母がバターロールを作るのを手伝ったことがあって、それが楽しかったんです。家族が喜んでくれたのもうれしくて「こういうことを仕事にできたらいいな」と思うようになりました。
「その思いが続いて、パン職人の道へと進まれたんですね。」
学生時代の調理実習でも周りの男子が「面倒くさい」と言っているのを見て、自分はそう思っていないことに気づいたんです。そんな気づきも後押しして、高校卒業後、横浜の製菓学校に進みました。
その後2年生になるときに、パティシエではなく、パンの道を選びました。洋菓子のきっちりした感じより、パンの自由さが好きだったからです。最初はそんな単純な理由でした。

技術を磨いた日々 ― 横須賀からロブションへ
「卒業後の進路を教えてください。」
20歳で横須賀の町のパン屋さんに就職しました。店頭販売だけでなく、ホテルやレストラン、幼稚園にも卸していたので、作る量がすごく多かったんです。最初の職場では、とにかく量をこなして技術を身につけようと思っていました。
「その後、六本木のロブションへ移られたんですね。」
25歳ぐらいから30歳までロブションで働きました。それまでとはレベルが全然違ったので、入ってからは大変でしたね。ただ、前のお店で量はこなしていたので、体力的にはそこまで苦にならなかったです。技術をさらに上げるという意味ではかなり厳しかったですが、スキルが上がっている手ごたえは感じていました。
「5年ごとにステップアップすると決めていたんですか。」
本当は3年区切りぐらいで次に行きたいと思っていたんですが、自分は人より習得に時間がかかる不器用なタイプ。5年かけてでも本質的に理解し、納得して次に行きたかったんです。ロブションを辞める直前にスーシェフ(2番手)の打診もいただいたんですが、「ワーキングホリデーでフランスに行きたい」という気持ちの方が強くてお断りしました。

強みを求めてフランスへ
「どうしてフランスに渡ろうと思ったのでしょうか。」
フランスに行っていた同僚の話を聞いて、技術より「作る商品のセンス」が違うと感じたんです。ロブションで働いていても、「何かが足りない。強みが欲しい」と思っていました。独立を目指す中で、このままでは独立できないという焦りもありましたね。
「最初はワーキングホリデーだったんですね。」
はい。リヨンという都市のパン屋さんで1年ほど働かせてもらいました。帰国(到着)して1カ月ほどした頃、ロブション時代の上司から「パリの新店でシェフをやらないか」と声をかけていただきました。ニューヨークでシェフをしている方で、事あるごとに相談をしている上司でした。タイミングの良さに驚きましたね。その後すぐにビザの申請をして、フランスに渡りました。
コロナ禍が生んだ、「パン・オ・ルヴァン」への探求
「フランスではどのようなビジョンがあったのでしょうか。」
フランスに行った目標のひとつが、イーストを使わないパン・オ・ルヴァン(小麦粉と水だけから起こした自家製の発酵種、ルヴァンを使って発酵させたパン)を作れるようになることでした。フランスに居る時には、美味しいパンを探して食べ歩くことも多かったんですよ。
その中でも、感動するほど美味しいパン・オ・ルヴァンに出会えたことが、そこを目指して精進するきっかけになりました。とても良い経験でした。仕事が忙しくて、なかなか勉強する時間が取れずにいたんですが、コロナ禍で、お店が2ヶ月ほど完全休業になったんです。その期間に、以前買っていたパン・オ・ルヴァンについてのフランス語の専門書を、翻訳しながら読み込みました。仕事が再開したと同時に毎日試作を重ねて、コロナが落ち着く頃には納得のいくパンが焼けるようになりました。

「フランスでの製法は、日本で教わったものと違いましたか。」
全然違いましたね。フランス人シェフに自分の作ったパンを食べてもらうと、「美味しくない」と毎回ダメ出しされていました。フランス産の小麦を使うハード系のパンの場合は、しっかり生地を混ぜて、しっかり発酵させて、よく焼く必要があるんです。日本と真逆でした。僕はフランス産の小麦を使ったハード系のパンの方が美味しいと感じているので、今もフランス産のもので作っています。
「ルヴァンを使ったカンパーニュがシェフのおすすめだと伺いました。」
そうですね。HORIDAYのパン・ドゥ・カンパーニュはルヴァンを使って発酵させています。ルヴァンは、イーストのようにすぐには膨らまず、約1日ゆっくりと時間をかけて発酵させる分、味わいが深く複雑になります。ぜひ食べて欲しい一品ですね。
戸塚で「HORIDAY」誕生
「独立を決意されたのはいつ頃ですか。」
フランスでパン・オ・ルヴァンを作れるようになったとき、「やりきったな」と思えたんです。そこで、独立を決めました。もともと横浜に住んでいたので、横浜市内でお店を持てたらいいなぁと思っていました。
たまたま戸塚に、ちょうどいい規模で、以前パン屋さんだった居抜き物件が見つかりました。駅からは少し距離があったので、最初は不安もありましたが、実家も近く、この地域には縁があると感じたので、ここに決めました。

「オープン後、すぐに人気店になったと伺いました。」
2022年11月2日にオープンして1カ月半経ったころ、メディアの方が取材に来てくださり、すぐに記事になりました。そうしたら翌日から行列ができるようになって、びっくりしましたね。そのときからのお客さんで、今でも来てくださる方もたくさんいるのでうれしいです。
旬を大切に。40種類のパンに込めたこだわり
「旬の素材を使うことを意識されているとか。」
フランスは日本よりも旬が当たり前の文化で、マルシェに行くとその季節のものしか並んでいないんです。その習慣がとても勉強になりました。
日本では果物を使うときに生のまま使うことが多いですが、フランスだとシロップ漬けなど自分で少し加工してから一緒に焼きます。そうすることで、うま味が凝縮されるんです。だから、甘くなっていない酸っぱい果物でも美味しく食べることができるんですよね。

「ラインナップはかなり豊富ですよね。」
今は40種類ぐらい置いています。旬の食材を中心に考えていますね。スタッフが差し入れてくれたイチゴを使って、即興で一日限定のイチゴのデニッシュを作ったこともありました。
種類が多いと、お客さんが選びながら、すごくワクワクした顔をしてくれるんですよね。その方たちが家に帰って美味しそうに食べてくれるのを想像するだけで幸せを感じます。


「パン用の巾着袋を売っているのが印象的でした。」
フランスでは、パンをビニール袋に入れているのを見たことがありません。ビニールだと湿気てしまい、食感が変わってしまうんです。クロワッサンは特に、パリッとした食感が損なわれてしまいます。なので、うちでは紙の袋に入れています。エコを考えると巾着が一番いいですね。巾着を持ってパンを買いに来てもらう光景が日常になるといいなと思っています。

お客様に寄り添うサービスの数々とこれからの夢
「お取り置きサービスもされているんですね。」
仕事があって朝一で来られないなど、事情がある方も多いので始めました。いろいろな方に使い勝手よく利用してもらいたいと思って。基本的には前日の営業時間内に承りますので、ぜひ利用してください。

「パンの発送もされているんですね。」
雨の日や真夏の暑いときなど、なかなか外出しづらいときに利用してもらいたいと思い、「HORIDAY便」を始めました。基本的にはおまかせで3000円分です。送料・クール便代・代引き手数料はかかりますが、遠方の方からすると交通費を考えたら安いと言ってもらえることが多いですね。備考欄にリクエストを書いてもらえれば、できる範囲で対応しています。

「これから挑戦したいことはありますか。」
将来的にはもっと大きいところでイートインできるスペースを作りたいですね。パンだけでなく、ワインやチーズ、ハムなども買える複合的なお店にできたらいいなと思っています。朝ご飯を食べにふらっと立ち寄れるような感じが理想です。
香り、食感、味わい。HORIDAYのこだわりパンを実食

シェフおすすめのカンパーニュ。イーストを使わず、ルヴァン種で長い時間をかけて発酵させたパンを食べるのは初めて。ワクワクしながら口に運ぶと、全体的に小麦の香りが立ち上り、周りのしっかり焼けた部分からは、香ばしい香りが!乳酸由来のまろやかな酸味とともに、噛むほどに甘みが感じられ奥深い味に魅了されました。堀さんが語っていた「複合的な味わい」という言葉は、まさにこのことだったのだと実感しました。

クロワッサンは、ほろほろと崩れてしまいそうなほど軽い生地が印象的。口に入れるとバターの風味がふわりと広がりますが、バター臭さはまったくなく何個でも食べたいと思える、まさに日常のパン。フランスは乳製品全般が圧倒的に美味しくて、日本ではそこに敵わない部分もあると思っていたという堀さん。でも、国産の発酵バターでも美味しいものがあり、他の材料で生地の作り方を工夫することで軽くて食べやすい味わいが生まれたと教えてくれました。

パン・オ・レザンは、クロワッサン生地にカスタードクリームを塗り、レーズンを巻き込んで焼き上げたパン。ラム酒に漬け込まれたレーズンは味が濃く、噛むほどに口の中に味と香りが広がります。クロワッサン生地ならではのサクッとした食感に、カスタードのほのかな甘さがアクセントになり、レーズンとの相性は抜群。毎日でも食べたくなる美味しさでした。
通いたくなる理由は、日々磨かれる確かな味
取材中もひっきりなしにお客さんが訪れていたHORIDAY。
ほぼ毎週通っているという方は、初めてパンを食べたときに感動して、思わず堀さんに電話をかけて気持ちを伝えたそうです。他にも、仕事が休みで朝から動ける日には必ず買いに来るという方もいました。確かな味を求めてHORIDAYのパンを日常の楽しみにしている方たちが印象的でした。

自分が納得できないものは出したくないという職人気質な思いを胸に、フランスでつちかった技術に満足することなく、日々、丁寧にパンと向き合う堀さん。去年より少しでも美味しくできないかと試行錯誤を重ねているといいます。その真摯な姿勢こそが、HORIDAYの味を進化させ、多くのファンを魅了していると感じました。
堀さんのこだわりが詰まった種類豊富なパンを味わいたくなったら、ぜひ戸塚の「HORIDAY」に足を運んでみてはいかがでしょうか。
HORIDAY
住所:〒244-0003 横浜市戸塚区戸塚町3935 1F
営業日:水〜日曜日(月曜日・火曜日定休)
営業時間:9:00〜17:00(土日祝日は16:00まで)
お取り置き用電話番号 080-3366-7421
HORIDAY便はInstagramの公式サイトからご注文いただけます。

森田かえ
取材ライター

