【台東区に現れた妖怪の話】気付かぬ間に髪を切る…婢髪切|下谷
こんにちは、とくらです。
皆さん、毎日クーラーつけて過ごしてますか?
今年はまさに酷暑と言って差し支えないのではないでしょうか。
寝る前は必ず少し前に寝室を涼しくしてから床に就くことにしています。
夜も油断せずお過ごしください。
しかし、こんな暑い日は、ちょっと不思議な話の一つもしたくなりますね。
全国津々浦々どこにでもその土地に怪異が現れたという話が一つは伝わっているものです。
もちろん、台東区にもたくさんの「怪異」が現れ、語られています。
今回は下谷の「婢髪切」というお話です。
婢髪切(はしためかみきり)
下谷のある家の婢(下働きの女性)が、朝起きて玄関の戸を開けようとすると、非常に頭が重くなり、突然髪の毛が切れて落ちしまった。
他の例ではこのように髪が切られた場合は、粘り気があり、臭気がするものだが、そうではなかった。 また、前年に髪を切られた別の家の婢は、夕方からしきりに眠気があり、髪を切られたのだという_____
頭が痛くなったかと思ったら突然髪がバサッと切れて落ちてしまう。
眠いなーと思っていたら、気付いたら髪が切られている。
何とも言えない恐ろしさのあるお話です。
一体何者による仕業なのか、全く分からない、姿も見えないというのが怖いですね。
この「知らないうちに髪を切られてしまう」という怪異は各地で発生していました。
元禄のはじめには、夜中に往来の人の髪を元結から切り、切られた人はいつ切られたかすらわからないということが度々発生していたといいます。
また、紺屋町の金物屋の下女が夜、買い物に出たところ、髪を切られた事に気付かず帰り、他の人に髪が切られていることを指摘され、驚いて気を失ってしまったという話も。
確かに知らないうちにバッサリ髪を切られていたら驚くこと間違いなしですね。
婢髪切とかなり似た状況ではないでしょうか。
髪切り
こうした髪を切る怪異は中世から近世にかけて全国に多く伝えられています。
さて、その正体とは一体どんなものなのでしょうか?
ある時、足利将軍家に仕える女房の髪が突然何者かに切られてしまうということがあったそうです。
毛根から髪がごっそりと抜けるのではなく、刃物のようなもので切断されているにもかかわらず、切られた本人は気が付きません。
いつのまにか切られていて誰の仕業か判然としないということがありました。
これはキツネの仕業ではないかと言われています。
キツネは人を化かしたり、神通力を使ったりと、不思議な術を使って人を惑わすイメージが有りますが、実はこの髪切りではキツネを人間が使って髪を切らせたのではないかという話もあります。
江戸時代後期の儒学者・朝川善庵が幼かった頃、髪切りが流行したそう。
その後も何度か流行し、道士(道術・仙人の術を用いる人)が狐を駆役してそのようにさせていたといいます。大抵は女性や、少女の髪を切り、男子の髪を切ることは善庵は聞いた事がない、と記しています。
なぜわざわざキツネに髪を切ることを命じる必要があったのでしょうか?
これはどうやら、「髪切り除けのお札」をたくさん売るための自作自演だったとのこと。
随分俗っぽい道士ですね…
個人的には、怪談とリアルな生活のちょうど交わるところにあるような、昔話的な良いエピソードだと感じます。
また、突然髪を切られるのは「髪切り虫」という妖怪の仕業ではないかとも言われます。
髪切りはどこからともなく現れて、気付かないうちに人間の髪を切っていく妖怪です。
江戸の市街地でも髪を切られる人が多く、紺屋町、小日向、下谷と様々な場所で髪を切られたという記録が残っており、特に大きな家で召使をする女性が被害に遭うことが多かったそう。
明治時代になってもこの妖怪は現れ、東京都本郷3丁目では明治7年に下働きをする女性が髪を切られたと当時の新聞で報じられました。
髪を切る妖怪といえば「髪切り」です。
江戸時代の絵巻物には、くちばしが長く、手がはさみのようになっている姿の妖怪が「髪切り」として描かれています。
目の大きなカラスを擬人化したような恐ろし気なビジュアルです。
キツネや髪切り、正体不明の怪異、と様々な説がありますが、江戸時代には女性の髪を切るという嗜好の者が、通り魔的に女性の髪を切るという事件も起こっています。
この突然人々の髪を切るという怪異は実際に起こった事件から生まれた話ではないかとも考えられています。
妖怪の伝承は人々が恐れたものや、不思議に感じたことから生まれるものです。
正体は髪切り魔であったとなれば、結局一番恐ろしいのは人間ですよね。
まとめ
今回は、大田南畝の随筆から「婢髪切」というお話を紹介しました。
不思議な現象だ、と思っていても、辻斬りのように髪を切っていくという犯罪者が実際に存在したと考えると、これは怖ろしいことです。
実は、「髪切りという妖怪が現れる」という話を流布することで、こうした犯罪に巻き込まれないようにと注意喚起をする意味のある怪談だったのかもしれませんね。