地下鉄の浅草駅近にある、眺望が魅力のカフェ。カフェ・ムルソー。隅田川を眺めながら食べる、レアチーズケーキは格別
チーズケーキを食べ終わると、
彼女は、涙をふいた。
彼女は、彼より、ちょうど12歳年上だったと言う。
彼女は、まさか12歳も年下の彼と付きあうなんて、考えてもいなかったと、笑った。
恋は、電光石火である。
家の近所のカフェで、目と目が合った瞬間、お互いが恋に落ちていたと言う。
お互いが一目惚れだった。
ある初夏の日、僕と友達の彼女は、卒業した大学のサークルの関係で、浅草のカフェ、カフェ・ムルソーで久しぶりに会った。
地下鉄の浅草駅近くのセンス溢れる建物の階段を上がり、店内に入る。
そんなに席は埋まっていなかった。
店内の開け放たれた窓からは、迫力のある隅田川が見える。
爽やかな心地よい風を身体に感じる。
開放感のある店内が、僕と彼女のこころまでも開放した。
川が見える席に座る。
太陽の光と風と墨田川が気持ちいい。
まるで避暑地のカフェにいるようだ。
彼女は、大学時代から変わっていなかった。
カフェ・ムルソーで人気の大好きなレアチーズケーキとアイスカフェオレを注文した。
僕も、同じものを注文した。
「それで、年下の彼とは、どうなったの?」
「甘えられる恋もあるんだなって感じたの。今まで、年上の男性としかお付きあいしたことがなかったから。甘えられたら、可愛くてね。そして、愛しくてね。」
カフェ・ムルソーの濃厚なレアチーズケーキとシンプルなカフェオレ、二人分がテーブルにゆっくりと運ばれてきた。
お店の方が、にこやかな笑顔で、注文したものを、テーブルにやさしく置く。
「よく女性が、年下の男性と恋に落ちる話を聞くじゃない、その気持ちがわかった気がしたの。頼られる恋っていうのかな。彼をこころから守ってあげたい、という気持ちになったの。純粋な恋だったの。」
色合い的に赤と白のキュートなチーズケーキを、彼女はスプーンで口に運ぶ。
「チーズケーキがたまらなく美味しいのは、このやさしくて包みこむような切ない甘さが、女性のこころの奥に響くからだと想うの。そう、年下の彼とも、このチーズケーキのように、こころの奥に響く恋だった。」
川からの風が、カフェの店内でワルツのように踊っていた。
店内から見える川の流れをやさしく目に感じながら、淡いカフェオレを、僕はゆっくり口に運ぶ。
「でも、年下の彼との恋は、長く続かなかった。彼の転勤が急に決まり、遠距離になってしまったけど。転勤してからの彼が少しずつ離れていくのをこころのどこかで感じていた。でも、彼を守ってあげたい、というこころは変わらなかった。守ってあげたいという気持ちは、恋なんだって、そのとき気がついたの。」
彼女は、泣いていた。
彼女は、年齢をこえて、人生をかけて、真剣に彼に恋をしていたのだ。
恋は、はかない。
恋は、一瞬で終わる。
チーズケーキを食べ終わると、彼女は、そっと涙をふいた。
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