上野|テート美術館 ターナー展、国立西洋美術館で開幕|「光の画家」ターナーの傑作80点超と現代美術との“対話”
「光の画家」とも称されるイギリス・ロマン主義の巨匠、J.M.W. ターナー。その世界最大のコレクションを誇るロンドンのテート美術館から、油彩・水彩など80点以上が上野にやってきます。さらに、今回はターナー作品だけでなく、現代美術作品も展示予定。19世紀の巨匠と現代アーティストの作品を通して、時代を超えた響き合いを探ります。
「テート美術館 ターナー展——崇高の絵画、現代美術との対話」は、10月24日に国立西洋美術館で開幕。「崇高」をテーマに、光や大気、自然の力をめぐる表現をたどります。
ターナーとは?——自然を描き、絵画の可能性を切り拓いた変革者
J.M.W. ターナー(1775−1851)は、英国絵画史上もっとも偉大な画家のひとりに数えられる存在です。18世紀後半から19世紀にかけて、産業革命によって社会が大きく変わり始める時代に、光や大気、荒れ狂う海や空、人間が生み出した蒸気や煤煙まで、この世界の移ろいゆく風景を描き出しました。その表現は、時に克明に、時に抽象的に世界を捉え、絵画表現の可能性を大きく広げ、後の印象派の試みに先行したとも言われます。

「テート美術館 ターナー展——崇高の絵画、現代美術との対話」の見どころ
「光の画家」ターナーの傑作80点超が一堂に
ターナーは、風景を見慣れたものとしてではなく、未知なるものとして経験するように描く稀有な画家でした。特に後期の絵画は、ものの形が光や大気の表現に溶け込み、世界そのものが立ち現れてくるようです。
本展では、油彩画、水彩画など、選りすぐりの作品80点以上が一堂に会し、テーマごとに再編された展示から、その画業をたどることができます。メインビジュアルを飾るのは、晩年の傑作《捕鯨船エレバス号に万歳! もう一頭獲ったぞ!》(1846年)。光にすべてが溶けゆく画面は必見です。
風景画の巨匠が追い求めた「崇高」を読み解く
本展を貫くキーワードが「崇高」です。ターナーが生きたのは、哲学者エドマンド・バークらによって「崇高」をめぐる議論が展開され、ロマン主義の芸術家たちに大きな影響を与えた時代でした。巨大なもの、恐ろしいものが引き起こす感情としての「崇高」を鍵に、本展はターナーの芸術を読み解いていきます。
序章「暗い部屋」の月光を描いた絵画から、アルプスの雪崩、荒れ狂う海景まで、自然の圧倒的な力をじかに経験させる絵画に出会えます。さらに、現代のマーク・ロスコやバーネット・ニューマンらの抽象表現も紹介し、「抽象的崇高」と語られた彼らの作品と、ターナーが挑んだ表現に光を当てます。
ターナーと現代美術、時を超える「対話」
本展の見どころのひとつが、過去の名画と現代美術を併置する展示です。国際的にこうした展示を主導してきたテート美術館の取り組みを、体験できる機会となっています。
ターナーの油彩・水彩のかたわらに、現代アーティストたちの作品が同時に展示され、時代を超えた「対話」を通して、ターナーの絵画が、気候変動や脱植民地化といった現代の課題を考える契機にもなっていきます。
ターナー作品と現代美術が出会う——展示の構成と注目作品の紹介
展示は序章と全7章で構成されます。緩やかな時系列でターナーの画業をたどりながら、現代美術作品と対置する展示です。ここではいくつかの章と注目の作品を紹介します。
序章「暗い部屋」——光と闇、まばゆい光に出会う
本展の始まりとなるのは、序章「暗い部屋」です。ターナーは、絵画が鑑賞者にどう受け止められるかに細心の注意を払いました。自身の画廊を訪れた客を薄暗い部屋でしばらく待たせたという逸話も残っています。鑑賞者がどのように「見る」かまで意識していたことがうかがえます。
月の光はターナーが象徴的に描いたテーマのひとつで、《月光、ミルバンクでの習作》では、夜の闇に浮かび上がる光の表現が体験できます。そして現代作家ケイティ・パターソンのインスタレーション作品《Totality(皆既食/全体性)》が展示され、日食や月光へのターナーの関心と響き合う作品を通して、光と闇をめぐる表現を見つめます。

同じ場所を旅する。 第1章「はじまりの歩み、英国の風景から」
ターナーは英国の各地を歩いて旅をし、その土地の風景を記録しました。自然のなかを歩くという体験そのものが、作品を生み出す重要なプロセスだったのです。本章では、ターナーのこうした制作のあり方を、現代のランド・アートの手法と対比して紹介します。
ここでは、ターナーと現代アーティストのリチャード・ロングが、時代を超えて英国南西部の湿原地帯「ダートムーア」という同じ場所を歩き、生み出した作品を紹介します。

海景画をめぐるターナーの探求。 第5章「荒れた海」
海景画はターナーにとって重要なテーマで、ターナーが残した作品の半数以上を占めています。荒れる海は人智を超えた自然の力、「崇高」の象徴でもありますが、一方で漁船や捕鯨船を描くターナー作品からは、人間の営みと自然の力が出会い、衝突する場所として、海を描き出そうとしていたことがわかります。
ここでは、アート・コレクティヴであるオトリス・グループの映像作品がターナーの海景画とともに展示されます。ターナーの作品から着想を得た《Hydra Decapita(ヒュドラの斬首)》は、奴隷貿易と現代の金融資本主義に批判的なまなざしを向けます。

ロスコ、ニューマンとともに。 第7章「根源的崇高——後期ターナーという問題」
晩年のターナー作品は、光や大気を描いた抽象的な作品が多くなっていきます。具体的な形を捉えることから逃れ、自由な表現を推し進めていきます。ここでは、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンといった抽象表現主義の作品が展示され、「抽象的崇高」の概念に光を当てています。ターナーからロスコやニューマンへ。時代を超えて「崇高」をめぐる絵画表現がどのようにつながっていくかにも注目です。

展覧会をさらに楽しむ。コラボ企画や関連イベントにも注目
漫画家・坂本眞一氏が本展のために漫画『イカロスの筆』を描き下ろすコラボレーション企画が発表されています。さらに、映画『ターナー、光に愛を求めて』(2014年)は、11月20日からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で1週間限定の特別上映が決定(延長の可能性あり)。日本橋のマンダリン オリエンタル 東京では、展覧会の世界観を表現したコラボレーションアフタヌーンティーが楽しめる企画も実施されます。展覧会とあわせて、多彩な関連企画も楽しんでみてはいかがでしょうか。
この秋、上野でターナーの光の芸術に浸ってみてはいかがでしょうか
光や大気を表現し、移ろいゆく自然の姿を描いたターナー。今回の展覧会では、その傑作80点超を、現代美術との「対話」というテートならではの視点で味わうことができます。この秋、国立西洋美術館で、時を超えた光の芸術に浸ってみてはいかがでしょうか。
開催概要
展覧会名: テート美術館 ターナー展——崇高の絵画、現代美術との対話
会期: 2026年10月24日(土)〜 2027年2月21日(日)
会場: 国立西洋美術館(東京・上野公園)
住所: 東京都台東区上野公園7-7
開館時間: 9:30〜17:30、金・土曜は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日: 月曜日、11月24日(火)、12月28日(月)〜2027年1月1日(金・祝)、1月12日(火) ※11月23日(月・祝)、2027年1月11日(月・祝)は開館
入場料: 一般 当日2,400円/前売2,200円、大学生 当日1,500円/前売1,300円、高校生 当日1,100円/前売900円 ※中学生以下・障害者手帳をお持ちの方および付添者1名は無料
[巡回展]大阪中之島美術館:2027年3月13日(土)~6月27日(日)

鶴丸 明
ライター

