800年前浅草寺に現れた妖怪!?隅田川に住む牛鬼とは

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こんにちは、とくらです。

先日、妖怪に関する展示を見に行ったのですが、人によって様々な妖怪に対する解釈、現代に妖怪が現れるとしたらどう変化するのか、色々な手法で描かれた妖怪など、とても面白く、「妖怪ってやっぱりいいもんですね」という気持ちが溢れました。

さりとて、現代の東京に暮らす自分は、身近に怪異を感じることはほとんどありません。

近しい友人が「この間河童に尻子玉取られてさ~」などと話しているのを聞いたことがある人がほとんど居ないように、私も自分自身が体験していないのはもちろんのこと、怪異を実際に見た人にすら出会ったことがありません。

しかし、浅草寺にはかつて、「これは妖怪だわ」と誰もが思うであろう妖怪が出現したと言われています。

今回は、そんな浅草寺に現れた妖怪「牛鬼」のお話をご紹介します。




浅草寺の「牛鬼」

この話は鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』にも記載されています。

吾妻鏡によれば、建長3年(1251年)、浅草寺に牛のような妖怪が突然現れ、法会のために読経中であった僧侶たち50人のうち、24人が悪気を受けて病に侵され、7人がその場で死亡したそうです。

これは恐ろしいですね…

特に何をしたわけでもないにもかかわらず、怪異を目にした途端に7人もの僧侶が亡くなっています。

目撃しただけで災厄をもたらす妖怪は多いですが、この7人は「即死」したということですので、相当な厄ですよね。

同様の妖怪の話は、墨田区の牛嶋神社にも伝わっており、浅草寺に現れた牛鬼が逃げ込んだのが牛嶋神社だとも言われているようです。

この時目撃された牛鬼は隅田川に住んでおり、川から現れたといいます。

牛が水の中に住んでいるというのは不思議な気もしますが、妖怪が水場に棲むという話は古今東西非常に多く見られますよね。

川や沼、池、海、トイレやふろ場での不思議な話は枚挙にいとまがありません。

水面が冥界との通り道だからなのか、本能的に危険を感じる場所だからなのか、怪異は水辺に現れることが多いんですね。

当時も隅田川という水辺に棲んでいた妖怪牛鬼は浅草寺に出没し、24人の僧侶に害をなしたのです。

浅草寺に出没した後逃げ込んだという目撃談とは別に、隅田川(当時は浅草川)から現れた牛鬼が、周辺を走り回った後に、牛嶋神社に入り込み、忽然と姿を消した、という記録もあります。

この時、牛鬼は一つの玉を落としていきました。

これが牛嶋神社の社宝として祀られる牛玉だと言われています。

また、牛鬼が落とした牛玉の力は、牛嶋神社の「撫で牛」に移ったとも言われており、現在では「撫で牛」を撫でてから病を患っている体の部分を撫でるとご利益があると言われています。

牛嶋神社には「スサノオノミコト」が祀られており、スサノオノミコトは疫病よけ神として信仰される「牛頭天王」の化身とされることも。

牛頭天王はその名の通り、牛の頭に人の体という奇異なビジュアルの神様でした。

病を癒すというご利益、スサノオノミコト、面妖な牛の怪異。

これらの共通点から隅田川に住む牛鬼は牛頭天王の化身ではないかと言われることもあります。

牛と怪異

隅田川周辺に出没した牛鬼ですが、実は全国各地に出現したと伝えられている妖怪です。

妖怪は出没する地域や出現時期によって、人に害をなす、何もしないが脅かしてくる、人間を助ける、ただ見えるだけ、などさまざまなあり方をすることが多いのですが、牛鬼はほとんどの伝承の中で人に悪さをする妖怪です。

三重県や和歌山県、岡山県、九州・四国には多くの牛鬼伝承が残っており、特に徳島県や福岡県には牛鬼のものとされる頭蓋骨がやミイラが安置されています。

いずれも、悪さを働く牛鬼を退治して持ち帰ったものと伝わっているのです。

各地に河童のミイラや鬼のミイラ、人魚のミイラなど、色々な妖怪のミイラと伝わるものが存在していますが、「実際に存在した痕跡」みたいなものにはなんだか心が躍りますよね。

日本には、他にも牛の体に人間の顔を持った「件」という妖怪の言い伝えもあります。

こちらは江戸時代の文献に記述のある妖怪で、大きな災禍の前に牛から生まれ、予言を残して数日のうちに死んでしまうと伝えられる牛系妖怪です。

どうやら「件」と「牛鬼」は由来の異なるもののようですが、牛の頭ではなく人間の頭に牛の体の牛鬼も存在することから、見た目が似ていても全く別だというのが不思議です。

また、「件」と似た妖怪に「牛女」があり、こちらは頭が牛で体は人間で女性のような着物を着ているそうです。

仏教では、地獄の獄卒である「牛頭馬頭(ごずめず)」の「牛頭」もその名の通り頭が牛で、体は人の鬼です。

「牛頭」という言葉が既に少し怖くて、私がとても好きな鬼の一つです。

ヒンドゥー教では神様の乗り物として神聖視されている牛ですが、もしかしたら日本でも何か少し禍々しさを感じるという意味で特別な生き物だったのかもしれませんね。

そういえば、ギリシア神話に登場するミノタウロスも、頭が牛で体が人という牛鬼と似た見た目をしています。

こちらは牛と人間の間に生まれた人身の牛頭の怪物です。

モロクという古代の中東で信仰された神様や先述した牛頭天王など、同じようなビジュアルを持った存在の伝説は世界各地に伝えられています。

牛と人間の頭部を挿げ替えたモノは割とポピュラーな存在なんですね。




まとめ

浅草寺に人身牛頭の怪異が現れ隅田川に住んでいた、という距離的・心理的な近さにドキドキしてしまう「牛鬼」の伝説。

今も少し特別な雰囲気を感じる浅草寺周辺ですが、800年前ともなればさぞ「出る」という感じがしたのではないでしょうか…!

当時の情景を思い浮かべながら今一度浅草寺を訪れたら、また違った空気を楽しめるかもしれませんね。

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ライター紹介

とくらじゅん

イラストレーター・ライター

1991年生まれ。下町暮らしのフリーライター・イラストレーター。 妖怪イラスト、育児漫画、ADHDエッセイなどを書いています。
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