【台東区に現れた妖怪の話】亡骸を奪う怪異、火車|蔵前

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こんにちは、とくらです。

今年の夏はびっくりするほど暑いですね。

もちろんエアコンをフル稼働にして、アイスを食べたい放題食べていますが、それでも一歩外に出れば灼熱…

こんな時はやっぱりちょっと不思議な話で心理的な涼を得ましょう!

全国津々浦々どこにでもその土地に怪異が現れたという話が一つは伝わっているものです。

もちろん、台東区にもたくさんの「怪異」が現れ、語られています。

今回は、浅草堀田原に現れた「火車」という妖怪のお話です。

火車

現在の蔵前~寿の辺りには、こんな話が伝わっています。

浅草堀田原堀筑後守の屋敷で、庚申(1800年?)4月7日の昼の事。 武家屋敷の屋根の上になにか物が落ちる音がしたので、見てみると腐乱した溺死体であった。 これは「火車」というものが捨てたのだろう____

これは怖ろしい話ですね。

屋根の上に溺死体が落ちてくるという場面を想像するだけでゾッとします。

ここで出てくる「火車」というものが死体を持って行ってしまうというお話は、全国各地にみられます。

例えば、宮崎県の東臼杵郡では、葬送の野辺送りのときに、棺が軽くなり死体がなくなっていることがあり、それを「火車が通る」と言うそうです。

これは葬儀の際に棺から火車が死体を奪い去ってしまうというお話ですね。

また、茨城県の那珂郡では、こんな話が伝えられています。

自殺したある若い娘の葬式が野辺送りに出ようとすると、突然暴風雨に。

お坊さんが「火車が亡者を盗りにきたのだ」といって、棺の上にのり妙鉢をたたいて拝んでそのまま野辺送りをすると、嘘のように天候がもとのようになりました。

不慮の死をとげた人の葬式にはよくあることだといいます。

こちらの話では、故人を奪われる前に僧侶が追い払ったということでしょう。

他にも火車には様々な現れ方をしていますが、「故人の遺体を奪う」という点は共通しています。

・葬式の途中に火車に遺体を奪われたという話が宮崎県内数箇所で伝わる。(宮崎県)
・竜華院の後ろの滝戸山には「火車」という怪物が棲んでいて、葬式のたびに棺桶の死人を奪おうと狙った。和尚は智恵をしぼって火車を欺いた。(山梨県上九一色村)
・寛文10年、備前の浦辺を船に乗っていると黒雲がでて来て中から人の声がした。 雲から足が出ていたので、引きずりおろしてみると、これはかつて黒雲に連れ去られた老母の死体だった。(岡山県)
・左右口村(現・甲府市)の寺の方丈が、葬式で瀬戸山の前を行列していると、黒雲が出てきて火車が来て棺をつるし上げた。方丈が印を結んだら火車は棺を下ろした。そこを火車穴という。

どうやら、火車が現れる時には天候が荒れる傾向にありそうです。

葬儀の最中に急に黒い雲が出たら気を付けた方が良いのかも…

火車とはどんな妖怪?

さて、ここで出てくる「火車」とは一体何なのでしょうか?
火車とは、「化車」とも書き、罪人の亡骸を奪っていくとされている妖怪です。
葬儀や墓地から死体を奪い、この浅草堀田原だけではなく、全国に現れて人々に恐れられました。
火の車を引いて走る鬼や、猫の姿で描かれることが多く、長く生きた猫が化けて火車となるとも言われています。
前項では単に「火車」が現れる伝承をご紹介しましたが、化け猫が火車であるという話も全国に伝わっています。
・ネコが化けると火車になり、棺桶をさらう。すごい雲が出て嵐になり、棺桶が空になっている。(群馬県吾妻市)
・猫が化けて魔になったものをカシャという。 昔、天桂和尚が葬式に行ったとき、急に雲が出て雷鳴が轟いた。そこで和尚が如意で何かを打つと、空は晴れた。 翌日、寺にやってきた猫を見てみると、眉間に傷があった。(静岡県島田市)
・火車は葬列の遺体を奪う。生前の行いが悪かった者の葬式の日、晴天だったが突然荒天となり、火車が遺体を奪おうとしたが、僧が棺に座って払子で祓ったので退散した。 火車は猫であった。(宮崎県西都市)

やはり化け猫が火車になるパターンのお話でも、火車が現れる前のお天気は荒れ模様ですね。
鎌倉時代の説話集である『宇治拾遺物語』によると、罪人に責め苦を与える地獄の獄卒が、燃え盛る車を引いて罪人の亡骸や、まだ生きている罪人を攫って行くと書かれており、この説話から火車という妖怪が生まれたのかもしれません。
しかし、生前どんなに悪いことをしていたとしても、遺族としては故人の亡骸を持ち去られてはたまったものではありません。
また、奪われた亡骸は、火車が五臓を引きずり出して食べられてしまう、葬儀に火車が現れるとその家族にも不幸がもたらされるとも言われています。
そのため、火車に亡骸を奪われないように様々な対策がされてきました。
・葬式を2回に分けて行う。最初の葬式では棺桶に石を詰め、火車に亡骸を奪われるのを防ぐ
・棺の上に髪剃を置く
・出棺の前に「バクには食わせん」または「火車には食わせん」と2回唱える
などなど
現在でもお通夜を「寝ずの番」と呼んで、朝まで線香の日を絶やさないようにする風習がありますが、これも一つの火車対策といえるのかもしれません。
人が亡くなると、かつてはすぐに腐臭がして動物などが寄ってきては齧る、これを朝まで代わる代わる遺族が見張るわけです。
もしかしたら、こんな人々の実際の経験から生まれた妖怪が火車なのではないでしょうか。

まとめ

今回は、大田南畝の随筆から「火車」というお話を紹介しました。

この怪異は注意喚起としての意味で広がったものなのかもしれません。

昔から伝わっている信じられないような話があったとしても、迷信だとむやみに断ずるのではなく、もしかしたらそこには何か意味があるのかもしれないと考えてみるのも面白いですね。

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ライター紹介

とくらじゅん

イラストレーター・ライター

1991年生まれ。下町暮らしのフリーライター・イラストレーター。 妖怪イラスト、育児漫画、ADHDエッセイなどを書いています。
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