下町風俗資料館 40周年特別展「移りゆく街の風景~広重の百景から令和の台東区まで~」レポート
上野は美術館や博物館が立ち並ぶ、言わずと知れたアートの集積地。
その上野・不忍池にある「下町風俗資料館」は、古き良きこの下町の文化を次の世代へ伝えるために設立された資料館です。
この度40周年を迎え特別展を開くとのことで、その題も「移りゆく街の風景~広重の百景から令和の台東区まで~」。
まさに、台東区の魅力を発信するために動き出したこの「irohaめぐり」で取り上げるしかない、とのことで早速観に行ってきました。
12月中旬、不忍池がすっかり黄と紅に色づき、本格的な冬の到来を感じさせる中、下町風俗資料館に到着。
資料館横に植えられたイチョウの美しさに見惚れていると、上野にゆかりのある朝倉文夫作の彫像に気づきました。
元々、上野公園入口にあった噴水とともに設置されていましたが、昨年、資料館横の花壇に再設置されたそう。
新型コロナウイルス感染対策のため、入ってすぐに検温・消毒・有事の際の連絡先表に記入をし、入館。
下町風俗資料館の1階は大正時代の建物や生活道具が並びます。これらは全て実際に使われていたもの。
新型コロナウイルスが流行していなければ、実際に中に上がることも出来たのですが…。残念ながらしばらくは実際に手に触れたりすることが出来ません。
さて、今回の特別展は2階の展示室。撮影禁止の展示もあるので注意です。
今回の特別展では、江戸から今の令和まで、台東区の風景の変遷を紹介するもの。
その起点は安政3~5年(1856~1858)にかけて制作された歌川広重の「名所江戸百景」に描かれた風景です。
歌川広重といえば、風景を描いた木版画で人気を集め、海を渡ってゴッホやモネなどにも影響を与えた浮世絵師。京橋を拠点に江戸時代末期の風景も多く残しました。
2階に上がってすぐ、特別展のタイトルと歴史を感じる写真、そして左には広重の浮世絵作品が目に入ります。
左の浮世絵は「名所江戸百景」は本物ではなく復刻したもの。
資料館で定期的に伝統工芸実演を行っている浮世絵木版画彫刻師の石井寅男さんが所蔵し、平成17年(2005)に完成した復刻版のうち、現在の台東区内とその周辺を描いた17点です。
- 両国花火
- 浅草川大川端宮戸川(あさくさがわおおがわばたみやどがわ)
- 浅草川首尾の松御厩河岸(あさくさがわしゅびのまつおんまやがし)
- 御厩河岸(おんまやがし)
- 駒形堂吾嬬橋(こまがたどうあづまばし)
- 吾妻橋金龍山遠望(あづまばしきんりゅうざんえんぼう)
- 浅草金龍山
- 真乳山山谷堀夜景(まつちやまさんやほりやけい)
- 墨田河橋場の渡かわら竈(すみだがわはしばのわたしかわらがま)
- 猿わか町よるの景(さるわかちょうよるのけい)
- よし原日本堤(よしわらにほんづつみ)
- 廓中東雲(かくちゅうしののめ)
- 浅草田甫酉の町詣(あさくさたんぼとりのまちもうで)
- 上野清水堂不忍ノ池(うえのきよみずどうしのばずのいけ)
- 上野山内月のまつ(うえのさんないつきのまつ)
- 上野山した(うえのやました)
- 下谷広小路
今現在の吾妻橋といえば、浅草のランドマークである東京スカイツリーと金色のオブジェが一望できる東京の絶景ですよね。
資料館では実際に観られますが、撮影禁止だったため、似たような写真を探しました。イメージはこんな感じでしょうか。
広重の目で見た当時の風景では、当然ながら高層ビルなどはあるはずもなく、河岸は緑が生い茂り、遠くまで眺めることができたんですね。
館内ではこの場所は撮影禁止ではありましたが、実際にはこのように復刻版と現在の場所が同じ構図で撮られた写真が並べられています。
今現在は隅田川のすぐそばに大きなビルが並んでいますが、昔は対岸に木があったり、富士山が見えたり…。昔と今と見比べてどう変化したかを確認できます。
そして、当時の町の風景だけではなく、細かいところまで緻密に彫られた線、鮮やかな絵具、繊細なグラデーションによって摺られた色など、浮世絵の伝統技法を感じることができました。
また、スペース内では、彫刻師・石井寅男さんのインタビュー映像も流れており、この地域のものづくりのお話や、彫刻師の視点から見た「名所江戸百景」のお話を聞くことができます。
広重の浮世絵と現在の場所の比較を楽しむと、次は近世の展示を見ることができます。
広重のいた時代が明治に移り、江戸の町は東京とその名を改め西洋の文化が流れ込みました。
江戸の人々が眺めた町の風景は一気に変化しましたが、元々寛永寺の境内だった上野公園では珍しい海外の文化や最新技術を紹介する博覧会が開催され、多くの人々がにぎわうように。
大正時代では、浅草六区が電気館に続いて数多くの劇場や映画館が立ち並び、さらに新しい文化を生み出すようになりました。
こうした大正時代の町の風景は、大正12年(1923)に発生した関東大震災で大部分が焼失しましたが、写真として震災以前・以後の人々の生活を残していました。
関東大震災でその大部分を焼失した東京の町は復興事業により、下町の構造そのものが大きく変わりました。
地震対策に鉄筋コンクリートの建物が建築され、自動車用に幅が広く、まっすぐに舗装された幹線道路が敷かれ、それまでの江戸の風情を残す町並みは消え始めます。
その後、太平洋戦争、東京オリンピックの開催など激動の昭和時代に入り、各家庭の暮らしが豊かになるにつれて新しいものに取って代わられるように。
こうした変化を危惧した人々によって、古き良き下町文化を後世に残そうと、この資料館が作られた今日に至ります。
台東区の移り変わりを40年にわたって紹介してきた「下町風俗資料館」の特別展「移りゆく街の風景~広重の百景から令和の台東区まで~」>では、江戸からこの令和にわたって、この台東区で生き抜いてきた人々の息遣いを身近に感じられる展示となっていました。
復刻された「名所江戸百景」は、会期中には17点以外の作品もいくつか入れ替えをするとのことなので、会期中日にちを替えて訪れても楽しいかもしれません。
また、朝倉文夫の他作品を展示している「朝倉彫塑館」は谷中にあります。
この度、資料館横に再設置された朝倉文夫の「生誕」像は、昭和39年の東京オリンピックの際に広小路の噴水に設置されていた作品で、戦後の焼け跡の再生を願い制作されたもの。
コロナ禍における困難な状況からの再生を願うものとして、下町風俗資料館の思いによりこの像が再設置された経緯と、台東区の伝統と発展への思いが重なります。
昔と今を見つめ、さらに台東区の魅力を再発見するきっかけとなった本展示は、令和3年3月7日(日)まで。
会期情報
会期:令和2年12月5日(土)~令和3年3月7日(日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16時まで)
会場:下町風俗資料館2階展示室
休館日:毎週月(祝休日の場合はよく平日)
入館料:一般300円 小・中・高100円
アクセス:JR・京成電鉄・メトロ銀座線・日比谷線 上野駅より徒歩5分
台東区循環バス東西めぐりん 水上音楽堂前、京成上野駅より徒歩2分
公式HP
\こちらもおすすめ/
歴史とロマンあふれる人気のスポット「古き良き下町の文化:下町風俗資料館」歴史×台東区を漫画で学ぶ!Vol.34
おすすめ散歩コース。下町の空気を感じよう。浅草からまわる隅田川テラス散策コース