1942年創業の老舗、パンのペリカンの直営店、蔵前のペリカンカフェ。網目状の焼き色が特徴の炭焼きトーストは、人気の逸品
カリカリのトーストを食べると、
僕は悲しくなった。
2021年、夏。
そのカフェは、蔵前の大通りにあった。看板のロゴマークのディフォルメされたデザインが印象的だった。
僕は、陽射しが降り注ぐ、ランチタイムにカフェのドアを開けた。
シンプルなウッディの椅子とテーブルが計算されたように配置されている店内は、わりと空いていた。
そのカフェの名は、ペリカンカフェ。
テーブルの上に置いてあるメニューを開くと、香ばしい炭焼きトーストのセット写真が目に止まった。
お店の人に聞くと、ペリカンカフェの人気メニューだと言う。
ペリカンと聞いて、僕は同じ蔵前にあるパンのペリカンを想った。
スマートフォンで調べると、ペリカンカフェは、2017年の夏にオープン。
パンのペリカンが経営しているお店だと言う。
1942年創業の老舗、パンのペリカンの食パンは、すぐに売り切れてしまうらしい。
僕は、いまから食べるペリカンカフェの炭焼きトーストに淡い期待をしてしまう。
スマートフォンでさらに調べていくと、炭焼きトーストは、食パンを厚さ3㎝に切り、網に乗せて炭火でじっくりと焼いている。他にも、パンのもつやさしい食感を大切にした、チーズトーストやハムカツサンド、フルーツサンドも人気メニューだ。
5分ほど時間が過ぎたころ、お店の人が、炭焼きトーストセットをそっとテーブルに置いてくれた。
思わず網目状に薄く焼き色がついたトーストに目がいってしまう。
それは、意外と小ぶりなトーストだった。
トーストの上にはバターが沁みるように置かれていた。
僕は、ゆっくりと手をのばし、炭焼きトーストを口に運んだ。
カリッとした食感、でも中はフワフワッとしたやわらかい食感、炭火の微かな香りも漂う。
トーストの香ばしさに、ささやかな甘さを感じる。
さすがペリカンカフェの炭焼きトーストと、感嘆詞が出てしまう。
僕は、カリカリのトーストには、苦い想い出がある。
学生時代、当時のガールフレンドとカフェで待ち合わせをして、コリコリに焼かれたトーストを頬張りながら、足が痺れるぐらい待った。2時間は待っただろうか。結局、ガールフレンドは、そのカフェには現われなかった。
次の日、ガールフレンドから手紙が届き、僕は彼女に失恋したことに気づく。
それ以来、何度か、カフェでカリカリのトーストを食べると、僕は悲しくなった。
逢いたかった。
彼女とたくさん話したかった。
彼女とたくさん笑いたかった。
カリカリのトーストを食べているときに想い出す彼女の笑顔は、今でも18歳のままだ。
ペリカンカフェは、ひとりでいても心地よく、不思議に彼女の18歳のころの笑顔もポジティヴに想い出すことができた。
悪友とはじめてこころを開いて、熱く語りあった想い出。
大人の真似をして、はじめてブラック珈琲を飲んだときの想い出。
緊張してしまった、はじめてのデートでお茶した想い出。
誰もが、カフェの想い出を持っている。
生きていると、人は、時々カフェに帰りたくなる。
店名:ペリカンカフェ
<営業時間>
月~土 9:00~17:00 LO
<休業日>
日曜日・祝日・特別休業日
(夏・年末・年始)
<所在地>
東京都台東区寿3-9-11
TEL:03-6231-7636
・東京メトロ銀座線田原町駅徒歩5分
・都営浅草線浅草駅徒歩5分
・都営大江戸線蔵前駅徒歩5分