取材|わざわざ訪れたい隠れ家パン屋さん。クロワッサンからベーグルまで豊富に揃う「BIB BAKERY」
台東区東側、浅草や入谷の近くに位置する千束。
台東区民の方の中にも、あまり行ったことがないという方もいるのでは。
実は昭和感漂うレトロな街並みが魅力的なんです!
そんな千束に、新しいパン屋さんがオープン。
朝早くから常連さんがパンを買いに並ぶほどの人気を見せています。
今回はそんな「BIB BAKERY」の店主、荻野さんにパン作りやお店への思いを伺いました。
千束に誕生した小さなパン屋さん
「BIB BAKERYという店名の由来を教えていただけますか。」
「BIB」という英語は赤ちゃんが使う「よだれかけ」という意味を持つんです。
小さな娘がいるので、店名もそれにちなんだものにしました。
「可愛らしい由来ですね。可愛らしいといえば、お店の看板もクロワッサンモチーフで素敵ですよね。ご自身でデザインされたんですか?」
そうなんです。前に働いていたパン屋さんのマークが、青地にベーグルをモチーフにしたマークだったんです。そのアイデアを拝借して、このようなデザインになりました。
「色々なパン屋さんで働いていらっしゃったんですか?」
そうですね。まずスーパーのパン部門で7年ほど働き、その後複数のパン屋さんで働きました。メインで修行していたのは横浜の個人経営のパン屋さんで、そこでは8年ほど働きました。
「もともと料理がお得意だったのですか。」
いえ、そういうわけではないんです。
スーパーのパン部門で働いていたときに、当時の上司の方が私がパン作りに向いていると思ってくれたのか、色々と教えて世話を焼いてくれたんです。
ただ、もう何年もパン作りを続けていますが、パン作りが楽しいと思えるようになってきたのは結構最近なんです。
「そうなんですね。何かきっかけがあったんでしょうか。」
自分が作りたいものを作れるようになった、形にできるようになってきたからでしょうか。
常に改良を重ねて生み出される個性豊かなパン
「パン作りで一番大事にしていることは何ですか。」
「発酵」ですね。
もちろんパン作りの材料も大事ですが、発酵を特に重視しています。自分が理想とする味や食感をイメージして、そこから逆算して酵母の量や温度のバランスなどを考えています。
前の店ではよく「食感をデザインする」と言われていたのですが、発酵によって食感が大きく異なってくるので、自分のイメージ通りの食感になるように意識しています。
「常連の方が私にシナモンロールをお勧めしてくださったのですが、こちらの看板商品なのですか。」
そうですね。もともとシナモンロールを売りにしようとしていたわけではないんです。私自身がシナモンロールが好きなので作っていたら、好評を博したという感じです。
「このシナモンロールを作るまでに、試行錯誤があったんですか?」
ベースは前に働いていたお店のシナモンロールなんです。
シナモンロールにも色々ありますが、アメリカンタイプのシナモンロールはもう少しチューイーな食感なんですね。
ですが色々食べ歩きをしたりして研究をした結果、前働いていたお店のシナモンロールが一番美味しいことに気づいたんです。
私はもう少しふわっとした食感のシナモンロールのほうが好みなので、生地に改良を加えて、自分なりにアップデートさせました。
「パン作りに使用している小麦は何種類くらいあるのですか。」
約12、13種類ほどの小麦を使用していますね。
バゲットには北海道産の「スム・レラ」という小麦を使用しています。独特の香りが気に入ったので使用しているんです。
バゲットには北海道産小麦を100%使用していますが、他のパンは国産小麦と海外産の小麦をブレンドして使っています。1つの小麦のみを使うと、その小麦の個性が強く出すぎてしまうんですよね。複数の小麦をブレンドすることによって「クセ」が相殺されてちょうどよいバランスになるんです。
「では、そのバランスを見つけるまでに試作を何度も重ねたのですか。」
そうですね。というより、今もまだ完成ではないですね。
常に改良していっている最中です。そもそも原料の小麦も年によって味が違うこともありますし。これからどんどん変わる可能性も秘めています。
「オープンして三か月ほどだと思いますが、当初と比べてパンの種類は増えたのでしょうか。」
増えましたね。当初は今の半分ちょっとしかなかったと思います。個人的には甘いパンはもちろん総菜パンも好きなのですが、まずは生地をしっかり味わってもらえるようなシンプルなパンを中心に作っています。もっと色々な種類も作りたいのですが。
「短期間でこんなに種類が増えたのはすごいですね。どのパンが人気なのでしょうか。」
クロワッサンやシナモンロールは人気が高いですね。個人的にはショコラティーヌが好きです。
ヴァローナのチョコレートを、カカオ70%と44%のものを二種類使用しています。70%のものだけだとちょっと苦みが強いので、組み合わせることでマイルドにしました。
「カレーパンを注文しているお客さんもいらっしゃいましたね。こちらのカレーパン、中の具材がちょっと他とは違いますよね。」
そうですね。中にザワークラウト(キャベツの酢漬け)を入れているんです。昔カレー屋さんで、トッピングとしてキャベツの酢漬けが添えられていたんです。これをパン作りに使えるのではないかと思って。
「そのようなアイデアはどこから出てくるのでしょう。」
きっと自分でも知らないうちにアンテナを張っていて、キャッチしたものを自分の引き出しの中にしまっているんだと思います。パン作りの時にそれを取り出すという感じですかね。
「そんなに注目されていないけど、このパンを推していきたい!というようなパンはありますか?」
まずはベーグルですね。プレーンとチーズの二種類あります。
フランス産の小麦を使用しています。それから食パン。ホップやヨーグルトを使用しているので、乳酸菌のすっきりとした酸味とホップの苦みも味わえます。発酵によって作り出された味わいは深みが違うんです。「複合的な味」と呼んでいるんですが、時間差で色々な味がするんですよ。
地域に溶け込む存在に
「なぜここ台東区、千束でお店を開くことになったのですか。」
浅草に祖母が住んでいたので、小さいころからよく連れてきてもらったんです。
「この辺りは、ちょっとレトロな雰囲気が漂っていますよね。」
そうですね。時間が止まっている感じ、と言いますか。
ただ、観光客の方は浅草で完結してしまうので、ここまでなかなか足を運ぶことが無いんです。でも、私はここはまだ発展できる潜在能力を持っていると思います。
美味しいお店もまわりにたくさんありますし。浅草を観光したついでに、というよりも、ここに来ること自体を目的とする人が増えたら嬉しいですね。
実はこのお店、元はうなぎ屋さんだったらしいんですよ。外観を活かしたくて、外灯などは変えずに使用しています。この街に溶け込みつつ、自分なりの表現をできたらいいなと思っています。
「これからどのようなお店を目指していきたいですか。」
規模を大きくしてクオリティが下がるのは嫌なので、店の大きさはこのままで今と同じクオリティを保っていけたらと思っています。
また、他の所にない味を作り出せたらと思っています。賛否両論があるくらいがちょうどいいかなと。
実直にパン作りに取り組む姿勢がお話から伝わってきました。
BIB BAKERYのパンを実食!
では、そんな荻野さんが生み出すBIB BAKERYのパンをさっそくいただきます。
まずはシナモンロール。
フロスティングが真上ではなくて片側に載っているのが新鮮です。ちなみに真横から見るとこんな感じです。
高さがあってインパクト大のシナモンロール、生地はふわっとしっとり。
トップのフロスティングはクリームチーズのコクと酸味、じゃりっとした砂糖の食感がたまりません。生地、シナモンシュガー、フロスティング三者のバランスが良く、毎回のおやつに食べたくなってしまいます。
続いてメープルチェダークロワッサンをいただきます。
お皿に出したときに思わず「美しい…」とつぶやいてしまったほど綺麗なフォルムです。
外はパリッと、中はしっとり。クロワッサンの一層一層が立っていて、サクサクの食感を存分に味わえます。そしてメープル&チェダーの相性抜群甘じょっぱコンビがバターの風味と合わさって、あっという間に食べ終えてしまいました。
お次はチーズベーグルです。
噛みしめた瞬間はむぎゅっと、中はふかふかの食感です。小麦の甘さと風味が伝わります。カリカリのチーズの塩気とジューシーさが生地にベストマッチです。
最後は「ホワイトチョコとユズ」です。
高加水の生地はむちむちもちもちです。外皮のパリッと食感と中のもちもち感のコントラストがたまりません。ユズの苦み&酸味と甘いホワイトチョコのバランスも絶妙です。
食べ終えるのが惜しいと思うほど、バラエティ豊かなパンひとつひとつがとても美味しかったです。ごちそうさまでした!
オープンして間もないにもかかわらず常連さんが足繫く通っていることからも、このパン屋さんが多くの人を惹きつけていることが伺えます。
主要な駅からはちょっと遠いですが、わざわざ訪れる価値あり。皆さんもぜひBIB BAKERYのパンを味わいに千束まで足を運んでみては。
BIB BAKERY
住所:東京都台東区千束2-26-10 サンハイム千束 1F
営業時間:9時〜17時(売り切れ次第閉店)
定休日:月、木曜日